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107.「アスリート対ガリ勉男子」

(ピピーー!)



「キャーー」



 試合終了。

 女子の黄色い声援が校庭に響き渡る。

 もちろん俺のクラスの試合にではない。


 お隣のコート、特別進学部3年生S1クラス対特別進学部3年生SAクラスに群がる女子たちからの叫び声が鳴り止まない。


 対して俺たち特別進学部2年生S2クラス対特別進学部1年生S2クラス戦。

 何を好き好んでこちらのガリ勉男子の試合を観戦する理由があろうか。

 そんな女子はこの学校には1人も。


 いた。


 俺がいるゴールから相手陣地のゴールネット裏でS1クラスの双子姉妹が見える。

 お目当ては言わずもがな。

 結城数馬に熱視線を送る女子が


 ガリ勉男子チームの戦い、俺が女子でも見る動機は皆無に等しい。

 うちのクラスの女子はどこにいる?


 いた。


 コートの脇でお隣の3年生の試合も見れる絶妙な場所に固まっている。

 あそこならこちらの試合も見れる。


 ちゃんとあなたたちの応援もしてたわよと言わんばかりのポジショニング。

 こっちの男子は体育館まで応援に行って、女子はこちらの応援に来なかったと後で言われない絶妙な場所。

 見たかった試合はこっちの試合じゃなくて、お隣3年生の試合に決まってる。

 女子の底知れぬ闇を感じる。


 

「皆さんお疲れ様でした」

「藤原先生」



 相手陣地のゴールネットの方で旧担任の藤原宣孝先生の姿が見える。

 フォワードの翔馬と数馬。

 それにミッドフィルダーの4人がその輪に加わっているのが見える。

 ついでに女子たちも藤原先生に群がっている。


 そこから遠く味方陣地のゴール前で見ている俺。

 たしか担任の御所水先生は体育館で女子バスケの審判中。

 チームをあわや敗戦に導く失点を重ね、俺は藤原先生に合わせる顔が無い。



「よーし勝った勝った」



 俺たち1年生S2クラス対2年生S2クラスのドロンコゲームが終了。

 男子サッカー第一試合は、校庭を2つに分けて戦う。

 狭いフィールド、人口密度が高い。


 ガリ勉男子集団S2クラス。

 スポーツとほぼ無縁の男子高校生同士の試合。

 試合時間はわずか20分。


 前後半無しの一発勝負。

 これでも1時間で6クラスしか戦えない、全校生徒参加のクラス対抗トーナメント戦。

 時間は午前10時過ぎ。


 1年生S2クラスの最終防衛ライン、突破される事5回。

 ザルゴールキーパー、高木守道。

 5発打ち込まれた2年生ガリ勉男子からの、へなちょこシュート。


 弾速は小学生レベル。

 蹴り損ねのコロコロ転がるサッカーボールが、俺が守るゴールを襲う。


 コロコロ目の前に転がってくるサッカーボールを受け止める事3回。

 残り2発は右へ左へ打ち込まれ、ゴールネットに突き刺さる。

 

 ゴミディフェンスラインとは逆に、クラスの女子たちの視線はずっと敵陣地前線に注がれる。

 俺たちのクラスのS2女子たち。

 すでにバスケの試合は終了、S1クラスに敗れてしまった。

 3年生の試合観戦のついでとは言え、俺たちS2男子が戦う試合の応援にちゃんと来てくれたようだ。



「結城君~」

「氏家君~」



 1年生S2クラスに、2人のスター選手が誕生した。

 クラスで唯一体育会系部活に所属する、サッカー部の氏家翔馬、野球部の結城数馬だ。


 俺たちのS2クラスは3対2で僅差の勝利。

 俺が2失点している中、相手陣地で躍動する我がS2クラスが誇る看板選手2人。


 結城数馬が先制点に続いて2点目を取った直後、すかさずザルゴールキーパーの俺が2失点目を食らう。

 遅れた集まってきたS2クラスの女子たちから、俺が失点するたびに悲鳴が上がる。


 残り試合時間1分を切った時、数馬が徹底マークされ相手ディフェンスに穴ができる。

 そこをついて単独ドリブルで駆け上がった氏家翔馬がそのままシュート。

 決勝点となる3点目をあげ、1年生S2クラスを勝利へと導いた。


 俺は5発打ち込まれて3発しか防げなかった。

 しかも防げたのは小学生レベルのコロコロシュート。


 あんなシュート誰でも止められる。

 完全にチームの足を引っ張ってしまった。


 ディフェンスラインにいる4人のクラスメイトが近寄ってくる。

 最終防衛ラインにいるディフェンダーの4人だ。



「高木、お疲れ」

「悪い高木、クリアミスった」

「俺もミスった」



 この試合に勝てたのはフォワード2人のおかげ。

 ザルディフェンスを世間の目に露呈させたゴールキーパーの俺とディフェンダーの4人。


 崩壊した防衛ラインを反省。

 お互いの傷をなめ合う。


 俺たちザルディフェンス5人とは逆に、フォワード2人とミッドフィルダー4人の男子はS2女子たちから祝福を受けている模様。

 2点取られても3点取れば試合には勝てるサッカー。

 

 この試合に勝てたのは明らかに攻撃陣のおかげ。

 攻撃陣が女子たちにモテている。

 失点したディフェンスラインの俺たちがモテる要素は皆無に等しい。

 

 そうこう考えていると、2人のスター選手がディフェンスライン5人の元に歩み寄る。



「みんなお疲れ」

「最後やったな氏家」

「カッコ良かったぜ」

「おおきに、まぐれやまぐれ~」



 ディフェンダー4人の男子がフォワード担当、決勝点をあげた氏家翔馬を褒めたたえる。

 


「数馬は2得点だな」

「ごめん、1発外した」

「上出来だって、なあみんな」



 この試合先制点と合わせて2点を稼いだ結城数馬。

 翔馬と合わせて3得点。

 この2人の活躍が無ければ、初戦で敗退した責任がすべて俺たちディフェンスラインにいる5人に向うところだった。


 氏家翔馬と結城数馬が必死に戦った20分。

 前線で3得点をあげた2人の姿に、試合中胸が熱くなったのは俺だけじゃないはず。

 2失点もしてしまった、悔しくてしょうがない。

 2人に救われる。



「守道、ようこらえたな~」

「カッコ良かったよ守道君」

「どこがだよ、ザルだっただろザル」

「勝ったらええんや守道、上出来や」

「2点取られても3点取れば勝てるよ」

「20分で3点も取ったお前ら2人が一番偉いよ」



 校庭を2分割してフィールドが狭いとはいえ、人口密度が高いエリアで2人はよく連携して動いていた。



「みんな一度教室に戻るみたいだよ」

「次の試合まで時間ようさんあるし戻るで~」

「おう」



 翔馬と数馬の2人。

 ディフェンダーの4人の背中を追う。


 俺は6人の後ろについて歩いている時に、不思議な気持ちになる。

 入学して2日目の学力テストで赤点を取って、S2クラスの中で浮いていた俺。


 クラスの中で白い目で見られていた俺が、今はこうしてディフェンダーの4人の男子と普通に会話していた。

 それが不思議な気持ちだった。


 なんか。

 受け入れられてるって、凄く感じる。

 なんでだろ。

 クラスの名前も知らない男子と普通に話せるのって、入学してからそういえば1度も経験が無かった。

 

 不思議な一体感を感じる。

 試合に勝てた事も当然大きい。

 負けていればそれこそ普通に話す機会も無かっただろう。


 サッカーの試合で勝利した事がすべてを満たしてくれる。


 フォワードの2人の姿に全員が刺激を受けていた。

 俺もチームに貢献したいと強く感じた。


 先週土曜日に平安高校で待ち合わせをして、翔馬と数馬はゴール前でのコンビネーションやシュートの練習を繰り返していた。

 どうやら2人は練習の成果を発揮できたようだ。


 それに引きかえ俺は、サッカー部の翔馬の弾丸シュートを受け続けたあの特訓の成果が一向に発揮できない。

 速いシュートにもそこそこ反応出来るようになったんだけどな。


 クソっ。

 翔馬と数馬が頑張ってるのに。

 チームの足も引っ張りたくない。

 俺が失点しなければ、もっと楽に勝ててたはずなのに。

 悔しい。


 それに土曜日はシュートが飛んでくるところも分かってたし。


 そういえばあれから相棒のチェックしてなかったな。

 後で確認してみるか。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 学年対抗トーナメント戦、男子サッカーの試合が次々と行われている。

 第一試合から20分の一発勝負。

 校庭を2分割して2試合同時に進められている。


 1時間で6クラスが戦う。

 この後の試合まで待機時間がしばらくあった俺たちS2クラス男子。

 一度自分たちの教室に戻ってくる。


 机に座る俺。

 よっこらしょっと。



(バァァーーン!!)



「ひっ」

「ちょっとあんた」

「はい」



 岬だ。

 俺の机、激震。

 パーで俺の机をぶっ叩かれる。

 超怒ってる。



「もっと気合入れろし」

「ラ、ラジャー」



 怒られた。

 俺だって数馬の先制点の直後に失点した時は、さすがにヤバいって思ったんだって。


 結果がすべてのスポーツの世界。

 2失点した俺に同じクラスの岬からお叱りを受ける。

 

 そんな俺と岬のやり取りをみんなに笑われている。

 クラスの女子たちが男子たちと仲良く会話を始めている。


 S2の女子たちはすでにバスケの試合に敗戦している。

 女子たちが、S2男子のサッカーの勝利を喜んでくれている。


 なんか、勝つって良い事だな。

 俺の席に眼鏡女子が近づいてくる。

 同じ部活の末摘花(すえつむはな)さんだ。



「あ、あの高木君」

「えっ?ああ、なに末摘(すえつむ)さん」

「良かったね、2点で抑えられて」



(グサッ)



「うっ」

「ああ!?ごめんなさい、そんなつもりじゃ」

(はな)、もっと言ってやれし。こいつのせいで負けそうになったっしょ」

「違うの~」



 クラスの女子から「2失点で抑えられて良かったですね」と言われれば、鉄の心を持つゴールキーパーである俺もさすがに激しく傷つく。

 

 み、みんなの足を引っ張るわけには。



「次の試合、3年生のSAクラスでしょ?」

「トーナメント戦だからしょうがないよね」



 マジかよ!?

 そうか、トーナメント戦だから、お隣でやってた試合の勝者が次の対戦相手じゃんよ。

 死のグループじゃんようちのクラス、誰だよクジ引いたの。



「3年生のSAクラスって、サッカー部の先輩5人もいるらしいよ」

「去年のインターハイに出てた先輩もいるんでしょ?」

「ウソだよ~絶対勝てないよ~」



 ウソだろ!?

 インターハイって何だよ?

 サッカー部の3年生が5人?

 



(バァァーーン!!)



「ひっ」

「あんた」

「はい」

「次の試合、全部止めろし」

「無理だって岬」

「あははは」



 岬れながプレッシャーをかけてくる。

 ただでさえ2学年も上の3年生が相手。

 クラスのみんなは笑っているけど、3年生サッカー部の弾丸シュートが飛んでくるゴールキーパーの俺の身にもなってくれ。


 笑いながら結城数馬と氏家翔馬が俺の席に寄ってくる。



「大丈夫だよ守道君。僕らが頑張るから、ねえ翔馬君」

「守道が3点取られても、俺と数馬で4点取り返してやるさかい」

「さっきの試合より防御率ひどくなってるだろ俺」

「あははは」



 さっきのガリ勉男子S2クラスのへなちょこシュートですでに2失点。

 このままではインターハイアスリートの弾丸シュートで、俺たちS2クラスのゴールが蜂の巣になってしまう。



「あははは」

「ふふふ」



 みんな、試合に勝って仲が良くなってる。

 勝利が俺たちS2クラスを1つにしてる。

 勝利がすべてを満たしてくれる。



「高木君頑張って」

「応援してるね」

「お、おう」



 口を聞いた事が無かったクラスの女子たちからも声をかけられる。

 なんでもない会話ですら、とても嬉しく感じる。



「ははは」

「やだ~」



 クラスメイトに笑顔が絶えない。

 みんなが仲良くなってる。

 とても一体感を感じる。

 S2クラスにきて、初めて感じるクラスメイトの一体感。


 もっとこの時間が続いて欲しい。

 勝ちたい。

 みんなのために勝ちたい。


 入学2日目の学力テストで赤点いきなり取って。

 あんなに白い目で見られてた男子や女子たち、同じクラスのクラスメイトたちからも優しい言葉をかけてもらえる。


 次の試合に負けたらみんなは……。



「ちょっとトイレ」

「漏らしたらあかんで守道」

「うるさいよ翔馬」

「あはは」



 廊下に出る。

 今は廊下には誰もいない。


 隣の成瀬がいるS1クラスと、太陽のいるSAクラスから声は聞こえてこない。

 教室には誰もいないようだ。


 廊下のロッカーには、カバンの中に俺の相棒が眠ってる。

 ロッカーを開けて、カバンを開く。

 藍色の未来ノート、まず1ページ目を開く。


 これは。

 俺が未来で受けるはずの化学の小テストと思われる問題。


 マジかよ。

 抜き打ちテスト?

 今はいい、今日は終日スポーツ大会。

 おそらく明日の化学の授業であるんじゃないのかこのテスト?


 しかも化学の小テスト、真っ赤に赤く浮かび上がる答えまで映し出されている。

 俺の相棒は気まぐれ。

 2ページ目を開く。

 白紙。


 どうやら明日にもあるかも知れない化学の小テストを、相棒は俺に答え付きで見せてくれるらしい。

 家に帰ってから、後で夜にでも見る事にしよう。

 

 次に俺は、藍色のノートの最終ページを開く。





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 上、上。



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 下、下。




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 左、右、左、右。

 ってちょっと待て!?


 20分しか試合時間無いのに、なに8発もシュート飛んできてんだよ。

 おかしいだろ。

 まさか。

 本当に20分で8発もシュート飛んでくるのか?


 いやちょっと待て相棒。

 藍色に変色して、お前のきまぐれにもほどがある。

 なんだよこの最終ページ、ふざけるなって。


 もしかしたら、もしかしなくても、次の試合の飛んでくるシュートの弾道を告知してくれてる?


 次の試合は3年生最強のアスリート集団であるSAクラス戦。

 8発のシュート、これって次の次の試合も含まれてる?

 次の次の試合がそもそもあるわけ無いよな、だって相手は平安高校最強の3年生チームのはず。



「シュドウ君!」

「うわ!?なんだよ光源氏」



 慌てて相棒をカバンの中に隠す。

 突然声をかけてくる神宮司葵。

 なんでこいつがここに。



「見た見た?」

「なにをだよ?」

「わたし」

「ちゃんと見てたよ」

「やった!」

「ふふっ」



 神宮司が言ってるのは、体育館であった第一試合の女子バスケの話だろ。

 隣で成瀬が笑いながら話を聞いている。

 だから今の俺はお前の敵なんだって。



(ガヤガヤ)



 試合が終わったのか、S1クラスの男女が一斉に教室に戻ってきたようだ。

 廊下で鉢合わせになり、S1の見知らぬ男子が俺の顔を見て噂話を始める。



「おいあいつ、さっきボロボロだった赤点男がいるぞ」



 俺のザルゴールキーパーがバレてる。

 赤点も相変わらずバカにされてる。

 なにも言い返せない。


 S1の女子に交じって男子もいる。

 S2クラスのクラスメイトの仲は改善してるけど、一度廊下に出ればS1クラスから俺たちS2への偏見はヒドイものだ。

 まだ先月の事が尾を引いているのか?



「高木君」

「成瀬」

「無理しないで」



(グサッ)



「うっ」

「ああ!?そんなつもりじゃ」

「結衣ちゃん、シュドウ君のクラス負けちゃうの?」

「違うの葵さん」



 幼なじみの成瀬から「頑張って」じゃなくて、「あなたは無理しないで」と言われてると、鉄の心を持つ俺も激しく傷つく。

 心が折れそうになる俺の近くに歩み寄る男の影が2つ。



「やあ高木君、また会えたね」

「右京」



 1人は右京郁人。

 それから、右京の隣にいるのはあいつ。



「成瀬さん、この人知り合い?」

「紀藤さん」



 こいつ。

 この前、氏家翔馬をバカにしてた男。

 こいつは1年生でサッカー部のレギュラーに選ばれた男だったはず。

 控えの翔馬を、背が低いってバカにしてた嫌な奴。

 

 幼なじみの成瀬に軽口叩いてる。

 右京郁人も話に加わる。



「成瀬さんは高木君の知り合いだったのかい?」

「右京さん、わたしたち」



 お前ら2人は知らないだろうが、俺と成瀬は。



「なんでもないの」

「そうなんだ」



(グサッ)



「うっ」

「シュドウ君?」



 俺って、一体。

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