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101.【藍色の未来編】第12章<明日のヒーロー>「春季スポーツ大会のお知らせ」

 5月中旬。

 中間テスト、3日間の日程は終了した。


 平日の早朝。

 御所水通りにある、コンビニの御所水通り店。

 俺と、クラスメイトの岬れなのバイト先。



(ピコピコ~)



「ありがとうございました~」

「した~」

「おい岬、なに省エネ接客してんだよ。お客様への愛が足りないぞ」

「うるさいし」



 相変わらず先輩従業員である俺の言う事をまったく聞かない岬れな。

 顔が可愛い女の子は、レジに立つだけで客足が途絶えない。

 岬が省エネ接客しようがしまいが、実際の売り上げにはまったく影響しない。

 

 それもそのはず。

 うちのコンビニは10代~40代の男性客層が最も売り上げに貢献している来店客層。

 来店客の実に6割を占めるこの層の売り上げが、岬の省エネ接客を正当化させてしまう。


 可愛い女の子がいれば売れる。

 リアル社会の経済は恐ろしく単純に出来ていた。

 看板娘の重要性を肌で感じるサラリーマン高校生、高木守道。



「おはよう高木ちゃん~」

「おはようお婆ちゃん。いつものやつ取っておいたよ」

「ありがと~」



 いつもレジ横にある和菓子を買っていく常連のお婆ちゃん、俺の名前も覚えてくれてる。

 岬のレジには若い男子が列をなし、俺のレジには常連のおじいちゃんお婆ちゃんが列をなす。

 俺って一体。


 バイトが終わり、岬と一緒に平安高校へ登校する。

 御所水通りを並んで歩く。


 今日は、運命の日。

 俺の中間テストの結果が発表される、大事な1日。



「あんた元気そうね、自信あるわけ?」

「ま、まあな」

「全然無いじゃん」

「うるさいな、あるわけないだろ自信なんか。俺を誰だと思ってるんだよ岬?」

「きしし」



 今朝の岬は機嫌が良い。

 岬も中間テスト、相当出来が良かったに違いない。


 俺も岬ほどでは無いにせよ、そこそこの自信はあった。

 いわゆる、手ごたえを感じていた。


 藍色の未来ノート。

 中間テストの3日間。

 俺は未来の問題と答えが載っていた化学、物理、日本史を繰り返し学習した。


 問題と答えが見えたからと言って、実際当日のテストで解答できるかは別の話。

 未来ノートを試験会場であるS2クラスに持ち込む事など当然できるはずもなく。


 ギッシリと詰まっている試験問題を、俺は必死に覚え込んだ。

 そう、岬の担任でもある、S2クラスの藤原宣孝先生が辞めるかも知れないという情報を知って。


 ウソかも知れない。

 どこの誰だか知らない、あの右京とかいう男の話なんて信用できない。

 ただ、俺が替え玉受験生なんてあいつに言われて、それがとても悔しかった。


 俺のせいで、他人を不幸になんかしたくない。

 俺の背中には、入りたくても入れなかった、1000人を超える受験生たちがいる。


 それを俺は先生たちや、友達からの言葉で強く意識するようになった。



「あんた、最近勉強頑張ってんだ」

「なんでだよ」

「バイトの休憩時間中、あんたラジオ英会話聞いてるでしょ?」

「なんでそれ知ってるんだよ」

「テキスト」

「えっ?」

「2年前と去年のやつでしょあれ」

「岬、お前もしかして」

「うちもやってるし。偉いじゃん」

「お、おう」



 ビックリした。

 岬もラジオ英会話やってたなんて知らなかった。

 海外旅行よく行くみたいな話してたよな、この子。

 俺がバイトの休憩時間中、英語のレッスンやってるの、この子にどこかで見られていたらしい。


 俺が英語の勉強してるって知ってた事にも驚いたが、岬が俺を褒めるのは、かなり珍しい事だ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 朝、平安高校の正門まで到着。

 正門の前に3人の友人の姿。



「ようシュドウ」

「おはよう守道君」

「太陽、数馬。それに」

「おはよう高木君」



 朝日太陽、結城数馬、それに……成瀬結衣。

 正門をくぐり、並木通りを5人で歩く。


 全員が芸術科目、美術Ⅰを選択している。

 顔は知ってる間柄。


 

「あんたの最後を全員で見届けにきたわけね」

「うるさいな岬、不吉な事言うなって!」

「ははっ岬さん、守道君ならきっと大丈夫だよ」

「シュドウ、俺は信じてるぞ」

「もう結果分かるのか、マジで緊張してきた」



 入学式の2日目。

 赤点を取った結果ボードを思い起こす。


 あれから1カ月の時が過ぎた。

 特別進学部限定で、テストの点数と氏名が公表される結果ボードが今日も掲示されているはず。


 見えてきた。

 校舎前に生徒たちの人だかりができていた。



(ガヤガヤ)



 その生徒たちの視線の先。

 校舎の前に掲げられた大きなボードが遠くからでも目に付く。


 完全実力主義。

 平安高校の特別進学部。


 ボードには、特別進学部に所属するすべての生徒の中間テストの結果が掲げられていた。


 登校時、総合普通科の生徒も混ざる。

 そのボードを目にした学生たちの声が辺りに響き渡る。


 中間テストの実施教科は全部で10科目。


 主要科目は『現代文』『古文』『英語』『数学Ⅰ』『数学A』などの各100点のペーパーテスト。

 その他にも特別進学部の1年生は『化学』『物理』が全員必修。

 選択科目として俺は『日本史』を選んでいる。


 各100点、合計1000点満点で実施された中間テスト。

 成績結果のボードが近づいてくる。

 S1、S2、SAの各30名前後の成績だけが掲示されている。


 ボードに向かって歩みを進める。


 周囲の視線が俺に向いている。

 不思議そうに俺を見つめる視線。

 驚いているような表情。



「いくぞシュドウ」

「おう」



 ボードが近づく。

 ちゃんと全力で予習したし、大丈夫だよな俺。

 今の俺にやれる事は全部やってテストに臨んだ。

 

 上位には絶対いないはずの俺の名前。

 下から探すことにする。

 成績順に名前が書かれたボードの一番下から自分の名前を探す。

 




――――――――――――――――――――――――――――




 29位…… 818点―――――  S1クラス

 30位…… 812点―――――  S1クラス

 31位…… 806点―――――  S1クラス

 32位…… 802点―――――  S1クラス

       ―――――――――  S2クラス 

       ―――――――――  S2クラス 

       ―――――――――  SAクラス 

       ―――――――――  S2クラス 

       ―――――――――  S2クラス 

 87位…… 590点―――――  S2クラス 高木守道

 88位…… 582点―――――  SAクラス

 89位…… 576点―――――  SAクラス

 90位…… 564点―――――  SAクラス 



※特別進学部1年生 S1・S2・SAクラス 平均点698点

※赤点該当者なし


――――――――――――――――――――――――――――――





「うぉぉぉぉぉぉーーしぃぃ!でかしたシュドウ!!」



(バシッ!!)



「痛てぇ!?痛いって太陽、叩くなって!」

「ははは、悪い悪い。やればできるじゃねえかシュドウ」

「まぐれだよ、まぐれ」

「本当、よく頑張ったね守道君」



 難問の連続だった。

 3クラスの平均点はちょうど7割といったところ。

 今年の10科目平均で、8割まで平均点は伸びてはいなかったようだ。


 結果ボードの俺の今の位置は、3クラス90名いる生徒の中で87位。



「やったね高木君」

「成瀬、ありがとう」



 中間テストまで残り6日と迫る中。

 藍色の未来ノートに浮かび上がった英語の問題。


 ここにはいない、蓮見詩織姉さん。

 そしてこの子。

 幼なじみの成瀬結衣から渡されたラジオ英会話の日々のレッスン。


 一度聞いた英文を、俺はこの1カ月、ひたすら毎日ノートに書き続けた。

 嫌でも覚えられたのは、英単語や英文の文法。

 毎日ひたすらやり続ける事で、もう嫌と言う程見つづけた文法まで無意識に解答できるようになっていた。



「ねえ高木君」

「なに成瀬?」

「英語能力検定、もう少しだね4級の試験」

「へ?なにそれ?」

「……忘れちゃったの?」



 英語能力検定?

 4級?

 なんだっけそれ……あっ。



「忘れてたよすっかり」

「う~」

「しょうがないだろ成瀬?中間テストで人生終わるかと思ってたんだからさぁ」

「英語能力検定の過去問、明日持ってくる」

「嘘だろ先生!?」

「なにあんた、英語能力検定4級受けるわけ?」

「だったら何だよ岬」

「だっさ」

「うるさいな!」

「あははは」



 赤点回避で安心してた俺に、成瀬が突然英語能力検定4級の話を思い出させる。

 成瀬、俺が英語能力検定4級受ける話、覚えてたんだな。


 90人中、87位。

 10科目、総得点590点の結果で、俺の中間テストは幕を閉じた。


 問題そのものが難しかった、特別進学部のテスト。

 うち3科目は藍色の未来ノートの力で水増しされた得点。


 正直、たった6日で化学、物理、日本史の解答のすべてを答えられたのか疑わしい。

 ほぼほぼ6割の得点。

 俺にとってはオの字と言える点数に違いない。


 ただ、1科目平均26点の学力テストの時からは大幅に前に進むことができたはず。

 もっと言えば、本来ここで終わっていたはずの俺の未来。

 俺の未来が、藍色の未来ノートで紡がれた。


 赤点回避なんて嬉しくも無い。

 藤原先生、ごめんなさい。

 もっと良い点取りたかったけど、今の俺には、これが限界でした。


 先生。

 辞めるなんて言わないよな絶対。

 俺、俺なりに、凄く頑張ったんですよ先生?


 褒めてくれるかな。

 怒られるかな。

 後で朝のホームルームが終わったら、藤原先生に聞いてみよう。


 そう。

 俺はただ。

 藤原先生に、褒めてもらいたかっただけなのかも知れない。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)




 朝のホームルームが始まる。

 教壇に立つ藤原宣孝先生が、神妙な表情で話を始める。



「短い間でしたが、今日で私が皆さんの前に立つのはこれが最後になります」

「ええーー!?」

「藤原先生!?」



 嘘だろ!?

 どうして。

 なんで。


 藤原先生、俺、赤点なんて取らなかったですよ?

 どうして。

 なんで。

 今日で最後って、どういう意味だよ。



「先生、辞めちゃうんですか?」



 S2クラスの女子生徒が質問する。

 嘘だろ先生?

 やっぱり俺のせいなのか?



「辞めはしませんよ」

「じゃあどうして?」

「総合普通科への内部異動が決まりました。最後まで担任を続けられなくて、先生も残念です」

「藤原先生」



 総合普通科へ内部異動?

 担任じゃ無くなったけど、藤原先生は学内に残るようだ。


 腰が抜けるかと思った。

 良かった。

 辞めるんじゃなかった。


 でも、どうしてこんな時期にS2クラスの担任外れないといけないんだ?

 俺のせいかやっぱり?

 どうなのか、理由がクラスのみんなも誰も分からないはず。



「突然の事で、皆さんには迷惑をかけて本当に申し訳ないと思っています。すべて私の力不足です」

「先生、わたしたちのせいですか?」

「担任外れちゃうなんて嫌です」



 当然の声がクラス内に響く。

 藤原先生は、S2クラスのみんなの大事な先生。


 S2クラスのみんなが、自分たちのせいで藤原先生が担任外れると言っている。

 自分たちのせい……先月の、あの親睦会事件の事。


 あれは結局、何だったんだろう。

 本当に、白かった未来ノートのせいだったんだろうか?

 理由はいまだに分からない。



「困った事があれば、いつでも職員室にいます。皆さんはこれからも、私の大事な生徒たちです」



 静まり返るS2クラス。

 次の先生の一声で、クラスの雰囲気が一気に変化した。



「それでは、今日から新しくS2クラスの担任をされます先生をご紹介します。先生、お入り下さい」

「おはようございま~す」

「御所水先生だ!」

「ええーー!?」

「どういう事!?」



 出た!?

 髪の毛おピンクの先生。

 御所水流先生がS2クラスの入口から入ってきた!?



「皆さん~お待たせ~」

「御所水先生だ!」



 嘘だろ!?

 新しいS2の先生って、御所水流先生かよ!?



「皆さん~どうか悲しまないで~藤原先生はちゃ~んと現代文の先生を続けられます~またいつでも会えるわよ~」

「そういう事です、皆さん。私は現代文の授業で、皆さんの頑張る姿を見させていただきますよ」

「先生~」



 暗かったクラスの雰囲気が一気に明るくなった。

 藤原先生が辞めない。

 引き続き現代文の授業でいつでも会えると言ってくれている。


 右京郁人は嘘をついていたのか?

 俺にあれだけ焦らせておいて、何だよこの結果。

 

 先月4月、クラスの25人が呼び出されている。

 今回の担任交代劇。

 S2クラスのほぼ全員が、自分たちのせいだとすら感じているはず。


 俺は親睦会には行かなかったけど。

 赤点取った事情もあり、先生の交代に一枚かんでいる気がしてならない。

 モヤモヤする。

 平安高校に入って1カ月が経ったけど毎日毎日、モヤモヤする事の連続だ。



「まあ~高木ちゃん~中間テスト頑張ったじゃない~」

「ちょっと御所水先生!気持ち悪いから近づかないで下さいって」

「嬉しいくせに~」

「あははは」



 おピンクの髪の先生が、一番後ろの席に座る俺に近寄ってくる。

 教壇で立つ藤原先生が笑ってる。

 あんなに笑顔の藤原先生、俺は今まで見た事が無い。



「高木ちゃん~仲良くしましょう~」

「気持ち悪いですよ先生~」

「あははは」



 担任の藤原先生は、総合普通科の教師として校内異動が実施された。

 特別進学部の現代文は引き続き担当教師として継続されるとの話。


 辞めるわけじゃなかった。

 ビックリしたのと、ほっとしたのも束の間。

 

 俺たちのS2クラスに新たに担任の先生がやってきた。

 このままじゃあ、俺のいるS2クラスが、一気にピンク色に染まっちゃうよ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 S2クラス全員に伝えられた、驚きの担任交代の報。

 誰もが驚きを隠せない藤原先生の総合普通科への学内異動。


 そして新しく担任となる、御所水流先生。

 クラスの全員が美術Ⅰを選択しているわけではない。

 突然の髪の毛おピンク先生の登場にビックリした生徒も多いはず。


 俺は、若干ではあるが御所水先生の免疫が付きつつある。

 慣れるとはとても恐ろしい事。


 俺は学力テストで赤点を取って、周囲から冷たい視線にさらされていた。

 それすらも慣れていた。

 慣れるとはとても恐ろしい事。


 変えてやる。

 俺はもう、昔の俺じゃない。

 廊下のロッカーのカバンの中にある、藍色の未来ノートに誓っている。


 いつかお前を使わなくても良いように、俺は俺の頭を鍛える。

 問題が出たり出なかったり、相変わらずノートはあてにならない。

 

 肝心な時に、中間テストの前だって、現代文と古文の問題はついに最後まで未来ノートに浮かび上がる事はなかった。

 中途半端にノートに頼り続けると合格後の二の舞を踏む。

 勉強するしかない。

 後にも先にもそれしかないんだよ。


 もう過去には戻れない。

 過去をやり直す事は出来ない。


 前を向いて、気合を入れる。

 俺が赤点をまた取るような事があれば、それはそれでまた他人を、友達を、みんなを不幸にしてしまう。


 誰か分からないクラスメイトが1人、おれの席に近づいてくる。

 ニコニコした笑顔。

 とても親しみやすい笑顔。



「高木君、中間テスト頑張ったんだね」

「S2で最下位の俺に嫌味かよそれ」

「そんなつもりじゃないよ~」

「ウソウソ、ありがと、サンキュー」



 俺が赤点回避した事を、喜んでくれている見知らぬS2のクラスメイトが声をかけてくれた。

 俺が中間テストで赤点取ったら、総合普通科に転落する事、気にしてくれてた子がいるんだな……気づかなかった。


 俺は何か勘違いをしていた。

 S2クラスのみんながみんな、赤点取った俺の事をバカにしているものだとばかり思ってた。

 S2クラスの雰囲気がとても良くなっている印象を受ける。


 単純に5月の大型連休を挟んで、S2のみんなも気持ちがリフレッシュしている事も大きい。

 岬れな、末摘花(すえつむはな)とあんなに楽しそうにおしゃべりしてる。

 あの2人、ゴールデンウィークをまたいで、さらに仲良くなってる。


 他のクラスメイトの顔からも笑顔が絶えない。

 長いお休みと、中間テストが終わった安堵感からくる笑顔なのかも知れない。


 そしてきっともう1つの理由。

 S2クラスに所属する1人である俺が赤点取らなかった事が、1つの要因のような気がしてならない。


 俺は中間テスト、ノートの力を使って今ここに立っている。

 慢心しちゃいけない。

 必ず実力で、みんなに胸を張れる男になってみせる。



「高木君~」

「氏家君」

「そな固い事言うなって。翔馬(しょうま)って呼んで~や~」

「良いのかそれで?じゃあ俺も守道で良いよ」



 コッテコテの関西弁。

 スポーツ男子らしい、明るくてサッパリとした性格。

 ちょっと太陽に似てるかも。



「翔馬はやっぱり大阪出身?」

「そうや、分かるやろ」


 

 氏家翔馬は大阪出身らしい。

 背は周りの生徒より低いが、体つきは立派な体格をしている氏家翔馬(うじいえしょうま)

 俺より少し背が低いくらいの男子。


 たしか、サッカー部に所属してるって言ってたな。

 俺と翔馬(しょうま)が話をしていると、数馬が俺の席に歩み寄ってくる。



「おっと、僕も話に混ぜてもらいたいね。良いかな氏家(うじいえ)君?」

翔馬(しょうま)でええで~」

「はは、分かったよ翔馬(しょうま)君。僕も数馬って呼んで欲しい」

「ほな、そう呼ばせてもらうわ数馬。野球部の伊達男やったな君」

「そういう言われ方は心外だな~」

「ははは」



 数馬と氏家翔馬も、この前5人だけの1限目に集ったメンバー。

 すでに顔なじみ。

 神奈川県民と大阪府民の奇妙な組み合わせ、平安高校の特別進学部は伊達じゃない。

 自然と3人、一瞬で打ち解けて会話を始める。


 同じS2クラスで、スポーツ関係の部活に所属している数少ない2人。

 S2クラスは一般入試組。

 俺と違って入試の勉強の経緯は違うにせよ、全員猛勉強をして入学した生徒たちに変わりはない。


 授業合間の休憩時間。

 数馬も加わり、氏家翔馬(うじいえしょうま)と男子3人、教室の一番うしろの席で会話する。



「来週からだね、『スポーツ大会』」

「そやな」

「『スポーツ大会?』」

「知らんのか守道?」

「翔馬、なんだよそれ」



 氏家翔馬と数馬に教えてもらう。

 スポーツ大会とは、この5月の下旬、中間テストが終わったタイミングで行われる謎スポーツイベントらしい。



「女子と男子で違う事やるのか、変な行事だな翔馬」

「今日は男子がやるクラス対抗戦、トーナメント方式で行われるサッカーの抽選会が行われる日や」

「サッカーやるの!?知らなかったよ俺」

「はは、守道君は中間テストで上の空だったんじゃないのかい?藤原先生、ちゃんとホームルームで説明してたよ」

「聞いてないよ数馬~」

「あはは。守道、お前ほんまおもろいやっちゃな~」



 全然聞いてなかった。

 先月、白い未来ノート捨ててから中間テストやら何やらで頭が一杯で。

 藤原先生のホームルームすらポカ~ンと聞いていた俺。

 本当、自分の事しか考えてなかった。

 周りが全然見えてなかったよ。



翔馬(しょうま)はサッカー部なんだろ?」

「ま、まあ一応な」

「なんだよその微妙な言い方」

「俺、レギュラーちゃうし」

「サッカー部にもやっぱりレギュラー争いあるんだな」

「守道君。野球部だって、今度レギュラーを決める大事な紅白戦が行われるんだよ」

「マジかそれ!?中間テストで全然そんな事知らなかったよ~」



 スポーツ男子にとって、試合に出られるか出られないかは死活問題のはず。

 太陽と数馬、今度野球部でレギュラー決める紅白戦が行われるらしい。


 1年生からレギュラーを狙ってる朝日太陽。

 高校野球の名門、平安高校野球部で1年生レギュラーを目指す投手の太陽。


 数馬も当然、太陽のライバルを豪語してこの平安高校にわざわざ神奈川からやってきてる。

 太陽と数馬。

 当然、狙ってるよな、野球部の1年生レギュラー。


 氏家翔馬がさらに『スポーツ大会』の話を続ける。



「全校生徒の男子全員、サッカーのトーナメント戦に参加するんや」

「なあ翔馬。それって、隣のS1とSAの男子たちのチームと戦うんだよな」

「そや」

「瞬殺されるだろうちのS2」

「ちなみに5点差でコールド負け」

「マジか~」

「はは。僕と翔馬、それに守道君がいれば、そこそこ良い線いけるはずだよ」

「俺がいるS2、絶対不幸になるからさ」

「なんだいそれ?」



 勝手に俺は不幸の男だと思い込んでいる今日この頃。

 男子はまさかのサッカー大会。

 しかもトーナメント方式、1日がかりで朝から総合普通科のクラスも含めてサッカーのガチンコ勝負をするらしい。



「なあ、女子は何してんのその間?」

「体育館でバスケさ」

「ウソ、女子バスケやんの?体育館にいたら見えないじゃん」

「守道君、色々大人の事情があるんだよ」

「なんだよ大人の事情って」



 華の女子たちは、総合普通科のクラスの生徒、特別進学部のS1やSAクラスの生徒たちも、全員体育館の見えないところでバスケットボールの戦いをするらしい。


 まあ、女子とは縁がない俺。

 当日、神宮司楓先輩や成瀬真弓姉さんまでいる、女子の戦う体育館に行く事はまずもってないはず。


 そんな女子だらけの体育館に応援にでも行った日には、一体どこ見て応援するんだよって話。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)




「は~い皆さん~お待た~」

「先生~」



 1日の授業が終わり、最後のホームルームを迎える。

 朝と帰りにS2クラスに入ってくるおピンク先生。

 先生が教室に入る度に悲鳴が上がる。


 みんなの藤原先生愛はどこへ消えた?

 学内に残っていつでも会えると言われ、すっかり安心したS2クラスのみんな。

 逆に今は、髪の毛おピンクの先生にS2のみんなが大興奮。


 あれだけ暗かったクラスが、一気に明るい雰囲気になってしまった。

 御所水先生の存在感、半端ない。

 藤原先生凄く優しくて良い先生だったけど、昔ながらっていうかかなり地味な先生。

 暗かったS2クラスに、御所水先生のおピンクパワーがさく裂する。



「女の子ちゃんはこっち~男の子はこっちに集まって頂戴~」

「は~い」



 S2クラスが男子と女子に分けられる。

 来週からあるスポーツ大会に向けて、何やら話し合いが持たれるようだ。



「は~い、男子ちゃんはポジション決めちゃって~」

「は~い」



 ポジション?

 サッカーなんだから、当然サッカーのポジションだよな。


 

「おい氏家。お前サッカー部だったよな」

「そや。ほなポジション割り始めるで~」



 サッカー部に所属しているとみんなが知ってる氏家翔馬が仕切る事になる。

 黒板によく見るサッカーのポジションを書いていく翔馬。

 一番下からゴールキーパー。


 一度黒板を書くチョークを止めた翔馬。

 男子15名の意見を求める。



「ディフェンダーは4人でええか?」

「オッケー」

「それでいこう」



 翔馬が音頭をとってディフェンダーに4人配置がまず決定する。

 いわゆるサッカーのフォーメーションを決めているらしい。

 初戦に万一勝って、2回戦に進めたら誰かと交代。


 スポーツは俺にはよく分からない世界。

 運動部なんて入ったことも無い。

 常に帰宅部。

 ついでに言うと今の俺はパンダ研究部の幽霊部員だ。

 超文化系男子、高木守道。



「ミッドフィルダー4、フォワード2。2-4-4でええか?」

「賛成」

「おい氏家。お前サッカー部だからフォワード頼むぞ」

「おおきに、まかしとき~」



 敵陣にもっとも食い込むフォワードは2名。

 得点源になる先陣の1名が氏家翔馬に決まる。

 氏家翔馬が1人の男を見て指名する。



「数馬、一緒にフォワード頼むで」

「オッケー」



 俺たちS2クラスのフォワード2名は、氏家翔馬、結城数馬に決まった。

 スポーツ系の部活に所属する希少な男子2名。

 後はガリ勉男子と、未来ノート男子が1名。



「俺たちディフェンダーしようぜ」

「おう」



 S2グループの男子の小集団ごとに、次々とディフェンダーやらミッドフィルダーが決まっていく。

 あっ。

 なんか。

 話に乗り遅れてる俺。

 音頭を取って仕切っていた氏家翔馬と目が合う。



「守道、ゴールキーパーだけポジション余っとるからお前頼むで」



 ゴールキーパー?

 




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