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1.【白い未来編】第1章<未来ノート>「突然の告白」

「――私、朝日君の事が好きなの」


 

 突然の告白。

 幼馴染の成瀬結衣(なるせゆい)

 

 長くサラサラとした綺麗な髪。

 スゥッと透き通るような声。

 いつも可愛らしい笑顔を見せる成瀬は顔を赤らめ目を潤ませる。


 俺たち3人が卒業した思い出の小学校。

 その校舎の裏庭にある1本の木の下。


 そう。

 成瀬が見つめる視線の先は俺じゃない。

 俺の大親友、朝日太陽(あさひたいよう)

 眼前に男女の2人が向き合う。

 完全に俺は蚊帳の外だ。


 終わった。

 小学校の頃から一緒に遊んできた俺たち3人。

 地元の公立中学に進学後もその関係は続いた。

 それもきっと今日限り。


 平凡でなんの才能も無い俺と違い、太陽はいつも俺の憧れだった。


 3年間野球部に所属。

 今年は3年生のエースピッチャーとして活躍。


 スポーツ万能、成績優秀、おまけに性格も良い最高のやつ。 

 絵に書いたような理想的な男。

 すでにスポーツ推薦で、あの有名な地元進学校である平安高校に入学も内定している。


 成瀬に頼まれて太陽を母校であるこの小学校に連れてきた。

 鈍感だった俺はその意図をすぐに理解出来なかった。



 ――私に頼まれて誘ったと言わないで欲しいの――



 成瀬にそう言われ、さも用事でもあるかのように太陽を誘ってしまった。

 何より好意を持っている成瀬からの頼み。

 あの時は断る理由が無かった。


 それがこんな結果になるなんて……。

 だが不思議とすぐに諦めが付いた。

 成瀬が選んだのが、俺も憧れる親友の太陽だったからだ。


 太陽と俺は月とすっぽん。

 勉強でもスポーツでも太陽には何1つ勝てやしない。

 なんの努力もしてこなかった俺には当然の報い。


 成瀬が俺を選ぶはずが無い。

 最初から俺とも一緒に遊んでくれたのは、きっと太陽がいたからだ。

 

 もうこれ以上ここにいる理由は無い。

 その場を立ち去ろうとした次の瞬間。

 背中の後ろから太陽の大きな叫び声が聞こえてきた。



「ちょっと待てシュドウ」

「えっ?」

「朝日君」

「結衣、お前はちょっと黙ってろ」

「う、うん……」



 俺の親友、朝日太陽に成瀬が告白した。

 しかも俺が密かに好意を持っていた成瀬が太陽を選んだ。

 今この場から少しでも早くいなくなりたい。


 俺を制止する太陽。

 怒った表情で俺の前に歩み寄る。

 何をやってるんだ太陽は?

 今は成瀬がお前に告白してる最中だろうに。



「シュドウ、お前。こうなる事知ってて俺をここに呼んだのか?」

「……」

「どうなんだシュドウ!」

「悪い太陽。正直知らなかった……」



 言ってしまった。

 俺は確かに何も知らずに太陽をここに誘った。

 成瀬に言われて太陽をここに誘ったと答えているのも同然だ。

 

 傍にいる成瀬の表情がこわばる。

 お互い絶対の信頼を置いている俺と太陽。


 俺は太陽からの問いかけに嘘をつく事が出来なかった。

 正直に知らなかったと答えてしまった。


 鬼の形相だった太陽の表情が一気にほぐれる。

 心底ホッとしたように胸をなでおろし、大きくため息をつく。

 俺の方を向いていた太陽が振り返り、成瀬の方を向く。

 太陽の口から、信じられない言葉が飛び出してくる。



「結衣。俺はお前の気持ちには答えられない」

「そんな……」

「悪い。これまで通り3人で仲良くやろう――」



 太陽が言い終わるより先に、成瀬は大粒の涙を流し始める。

 太陽が近づこうとすると、成瀬はその場から走り去ってしまった。


 重苦しい時間だけが過ぎる。

 太陽は俺の方を振り向くと、無理をしてニヤけた表情を浮かべる。



「はは、シュドウ。ビックリしたな」

「ビックリじゃないよ太陽。何でオッケーしなかったんだよ?」

「お前がいる前でそんな事言えるわけないだろ?」

「馬鹿だろお前。俺の気持ち知ってたから断ったのかよ」

「そうじゃないって」

「嘘ついてんじゃねえよ」



 思わず声を荒げてしまった。

 太陽は大馬鹿野郎だ。

 俺が成瀬の事好きなの知ってて、自分が告白されたのに断りやがった。


 成瀬結衣は秀才で成績も常にトップクラス。

 推薦枠ですでに太陽と同じ平安高校への入学も決まっている。

 太陽と成瀬は同じ高校へ進学する2人。


 加えてあの可愛い顔立ちと上品な仕草。

 成瀬に告白する男子は中学3年間常に絶えなかった。

 これから別々の高校になるかも知れない俺なんか放っておいて、告白された成瀬の返事にオッケーしない方がどうかしてる。



「お前、今すぐ成瀬追いかけろって」

「そんなつもりねえよ。それにおかしいのはシュドウの方だろ?」

「何がだよ。俺は成瀬の相手がお前なら納得できるって言ってるんだよ」

「こんな状況になってもまだ結衣の肩持ちやがって……本当にお前はお人好しだな」

「ああそうだよ」



 太陽は俺のそばを離れない。

 離れないどころか俺の黙って向き合い、心配そうな表情を浮かべている。


 こいつは本当に俺の親友だ。

 裏切る事を知らない。

 こんな事になってまで、なんで太陽は俺のそばを離れない?

 なぜ成瀬を追わない?


 太陽に嫉妬し太陽から離れようとしたのは俺の方だ。

 裏切ろうとしたのは俺の方だ。

 自分が嫌になる。


 知らなかったし気づけなかった。

 こんな事になるなんて、今日ここに来るまで思いもしなかった。


 太陽に連れられ、小学校の外に出る。

 隣にある公園のベンチに2人で腰掛ける。

 気づいた時には涙を流していた。

 太陽が肩を叩く。


 しばらくして落ち着いてくる。

 こんな事になっても俺の傍にいてくれる太陽。

 こいつは昔からこうだ。

 何があっても俺を裏切らないし励まし続けてくれる。

 いいヤツ過ぎてあまりにも自分が惨めに思えてくる。



「なあシュドウ」

「……なに?」

「俺たちさ。また前みたいに戻れるかな?」

「分かんないよ……」



 太陽が言う俺たち。

 それは俺と太陽、それに成瀬の3人。


 本当に昨日までは仲の良い親友だった。

 小学校からずっと一緒に遊んでいた。

 中学に進学してからもその関係は変わらなかった。


 今思えば今年に入ってから成瀬の太陽を見る視線に変化があったようにも感じる。

 太陽が試合で登板する日には、成瀬と一緒に球場まで応援に行った事もある。


 マウンド上で必死に投げている太陽の姿を祈るように見つめる成瀬。

 あの時にはすでに成瀬は太陽へ恋心を抱いていたに違いない。


 そんな事も知らずに太陽を見つめる成瀬を見つめ続けていた自分。

 きっと俺たちの関係はこの中学3年で最後になるだろう。



「なあシュドウ」

「今度はなんだよ」

「やっぱり別々の高校になりそうか?」

「俺が平安なんか入れるわけないだろ?」

「受けるだけ受けてみろって。まだ受験まで2カ月あるだろ?」

「絶対無理」



 常々太陽は俺と同じ高校に通いたいと話をしていた。

 だがすでに平安高校の特別進学部へスポーツ推薦の話が来ていた太陽。



「俺は公立行くから。私立の平安はちょっと……」

「だよ……な」



 私立高校の平安高校。

 その総合普通科となると施設費など年間で高額な学費の負担が発生する。

 俺の家庭事情を知ってる太陽はそれ以上口を挟まなかった。



「だけどよシュドウ。総合普通科はともかく、特別進学部なら学費もかからないだろ?」

「絶対受からないから、検討する必要すら無いだろ?」

「お前がそれ言うか?受けるだけ受けて、駄目なら納得するだろ?受験には絶対プラスになる、それは間違いない」

「そりゃそうだけど」



 はなから地元の公立高校しか考えていなかった俺に、太陽は平安高校の一般入試による受験を受けるよう言い始める。

 レベルの高い平安高校。

 総合普通科では無く、そのさらに上の特別進学部。

 これまでまともに勉強してこなかった俺には絶対無理なハードル。


 それでも太陽は目標は高い方が良いと言う。

 平安高校を目標に受験勉強して、地元の公立高校も滑り止めで同時に受験する。


 最初から低いレベルの高校に合わせた勉強をすると痛い目に合う。

 高いレベルで勉強すれば、それは必ず自分の身になる。


 常に前向きでプラス思考。

 本当にこいつには頭が上がらない。


 推薦入学が決まっている太陽は俺に付き合って勉強してくれるとも言い始める。

 成瀬ではなく、こんなクズの俺の面倒を見てくれると言う太陽。



「本当にお前は……俺の事なんか放っておいて、成瀬とデートでもしてれば良かっただろ」

「俺にも事情があるんだよ……それよりシュドウ。受験本気で考えようぜ?」

「まあ、考えるだけなら」

「良いぞシュドウ、よく言った。さっそく過去問買いに行こうぜ」

「今から行くのか!?」



 2人で公園のベンチを立つ。

 買いに行くのはいつもの駅前にある書店。

 何も言わなくても向かう先すら分かり合える。

 俺たち2人は本当に長い付き合いだ。


 成瀬は太陽の事が好きだった。

 もう頭の中グチャグチャで他の事は考えられない。


 太陽は沈む気持ちの俺の心を奮い立たせようとしている。

 受験という大きな壁が迫る俺を、まるで応援するかのように。


 太陽の言う通りだ。

 今はとにかく受験の事だけ考えなければいけない立場。

 そう自分に言い聞かせる。

 段々と気持ちが落ち着いてくる。


 受験の事だけ考えていたい。

 そうでなければ、この胸の苦しさが収まりそうにない。


 涙を流して走り去った成瀬から目を背け、俺は太陽と2人歩き始めた。

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