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草地には薬草。

木の根本にはきのこ。

溜め池のほとりには、上質な粘土。


「素晴らしい……!」


やはり自分で採取に来て、正解だったわね。

面白そうな素材が、山ほどある。

たくさん持って帰れないのが残念だけれど、その分質の良いものをより分けて——


「何をしている」


夢中で草をむしっていると、頭上から声がかけられました。

視界に、磨き上げられた革靴の先端。

反射的に見上げると、随分と背の高い男性と目が合いましたわ。

いくら灯りがあるとはいえ、その容姿までは完全にはわかりません。

ただ、髪の色も目の色も暗く、おまけに服の色まで暗い陰気な容貌であることは把握しました。

わたくしの服だって確かに黒くはありますが、こちらは修道服。

翻ってこの殿方は、制服を着ている感じではありません。

つまり、やたらと暗いファッションはご自分の趣味でやっているということです。

なんて陰気な男ですの。


「採取ですわ。このあたりの土地は、自由にしていいと聞いていたのですけれど」


「……草や土など、多少とったところで誰も困らんからな。しかしこんな夜中に採取をしている人間は、初めて見た」


「珍しいものが見れて、よかったですわね。ところでそれだけを言うために、わたくしに話しかけて来たのかしら?」


立ち上がって、男の顔を睨みます。

陰気な服装なくせに、意外と整っておりますわね。

もう少しファッションに気をつけていれば、かなりモテたでしょうに。

それにさっきからずっと、表情がほとんどないですわ。

わたくしはそれくらいで怯むような根性なしではございませんが、人によっては萎縮してしまうのではないでしょうか。


反抗的な態度を取られるとは思っていなかったのか、男は虚を突かれたような表情で瞬きをしました。

初めて表情が出ましたわね。


「——この辺りの治安は悪くないが、それでも夜中に若い娘が一人でいるのは危険だ。早く帰った方がいい」


「あなた、自警団かなにか?」


「……そのようなものだ」


どうにも受け答えが怪しいわね。

しかしわたくしのように可憐な少女が、一人で出歩くのは危険なのは事実。

ここは素直に、男の忠告を聞き入れておきましょうか。

杖をカンテラ代わりに持って踵を返し、草地を踏んで歩き出します。

足音が、さくさくと夜に響く。

おかしなことに、二人分。


「まだ何か?」


振り返ると、男がびくりと肩を跳ねさせました。

あら、案外肝が小さいのね。


「…………夜道は危ない、送ろう」


「結構よ。見ず知らずの殿方と一緒に歩くほど、無防備な女ではないの」


「夜中にそんなものを持って人目のない場所に来るなど、女でなくとも十分に無防備だ」


「そんなもの?」


「君の杖の先についてる、光る宝石」


「あら、こんな単純なつくりのものを欲しがる方がいるの?どうせエーテルが切れてしまえば、ただのサファイアに戻るのに」


「………十分価値がある」


そうなの?

私がぴんと来てない様子なのを見て、男はやれやれといった風に眉間にシワを寄せました。

なんだ、案外表情があるのね。

しかし人を懐柔したいのなら、ニッコリと微笑んで見た方が効果は高そうだわ。


「ともかく、君は自分で思っているより危険な状態だ。悪いことは言わないから一人で歩くのはよしなさい」


しばしの逡巡。

わたくしの勘によれば、この男性は悪人ではない気がしますわね。

しかし第六感というのは、裏切るときは裏切るもの。

勘だけで彼を信用するほど、浅はかなことはしなくってよ。

そうね、ここは一つ脅しをかけておこうかしら。


「わたくし、ご覧の通り修道女ですの。もし不埒な真似をしたら、主神はきっとあなたに残酷な神罰を下すことでしょうね。よろしくて?」


ぴん、と人差し指を立てて男に念を押します。

すると彼は、険しい目元をほんの一瞬緩めて小さく微笑みました。


「わかった、神に誓って君を教会まで安全に送ろう」


この人、いつもこんな表情をしておればよろしいのに。

好感度が徐々に上がって来ましてよ。

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