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眠りキノコに、厨房からちょろまかしてきたオリーブオイルと小麦粉。
それらを釜へ投入して、ぐるぐるとかき混ぜる。
全てが分解され再構築されると、それを知らせるかのように調合液が一際強く輝いた。
眠り薬の、完成よ。
五粒の錠剤を紙で包んで、ポケットに忍ばせました。
今日は、爺が教会に遊びに来る日。
「ニコラさん、どうやってキノコを手に入れたんですか?」
「次に詮索したら、わたくしの部屋を出禁にしますわよ」
「ひどい!小麦粉と油を取ってきたの、私なのに!」
「関係ないわ…あ、そうだ。これを持っておきなさい」
「なんですか、これ」
「ちょっとした防犯グッズよ。不心得者に絡まれた時に投げなさい」
頬を膨らますリリーを連れ、中庭へと行く。
そこにはいつも通りにベンチで、爺が待っておりました。
「ご機嫌よう」
「お嬢様、お元気でしたか」
最近は不本意ながら、ここでの暮らしにもすっかりと慣れましたわ。
掃除洗濯などは未だに全く好きには慣れませんけれど、手早く済ませられるようにはなってきました。
それに、錬金術で多少は工夫もできますものね。
洗濯物が乾きやすい洗剤を作ったり、一拭きでものがピカピカになる雑巾を作ったり。
わたくしは密かに、自分の仕事を軽くしてまいりました。
最終的には、勝手に動く掃除用具などを作って、完全に仕事を外注化できると素晴らしいですわね。
「これをあげるわ、睡眠薬よ。飲むとたちどころに気を失うから、必ずベッドの中でお飲みなさい」
「おお、ありがとうございます。近頃は寝苦しくて、困っておりましたので」
爺のシワシワの手に、薬を乗せた。
随分と、歳をとったわね。
あと何年、この老人と一緒にいられるかしら。
物心ついてからずっと味方でいてくれた爺が、いつかいなくなるなんて想像もつかない。
「……賢者の石、作ろうかしら」
「どうしたんですか、急に」
「そういうお年頃なのよ」
「さようで」
益体のない話をしていると、中庭の正門側にある出入り口が騒がしいことに気がつきました。
修道士ベロアと、見知らぬ騎士の女性が言い争っているようですわね。
まったく、教会では静かにと教わらなかったのかしら。
「何事かしら」
「さて…見に行ってみましょうか」
爺がベンチからヨッコラセと立ち上がり、揉めている人たちに歩み寄っていきます。
わたくしもそれに従って、後ろからついていきました。
「——ですから、うちはアイテムの受注はしておりません」
「そこをなんとか…錬金術師殿にお願いできませんか」
「お引き取りください」
どうやら、話題はわたくしについてのことらしい。
であるなら、わたくしが口を挟んでもよろしいでしょう。
「わたくしに、何か頼み事が?」
「ニ、ニコラさん!」
「もしや、教会の錬金術師殿でありますか」
「ええ」
近くで見ると、この女性はとても背が高いわね。
大柄な修道士ベロアですら、若干押し負けていた理由がわかるわ。
この体格、強引には追い返せない。
「初めまして、モリーと申します!」
あらこの女性、胸板も立派ね。
辺境の騎士というのは、王都とは違ってかなり鍛えている様子。
こちらでは魔物の危険が身近だから、きっと意識がまったく違うんだわ。
そう言えばあの推定自警団の男性も筋肉は立派でしたわね。
「ご機嫌よう」
「単刀直入に申し上げます、バーデン騎士団のためにその腕を振るっていただきたいのです!」
「騎士様、それはお断り申し上げたはずです!」
ビシィ!と擬音がつきそうなほどに敬礼をしながら用件を言ったモリーさんに、ベロアさんが口を挟む。
「ベロアさん、どうしてわたくしへの用事にあなたが返事をなさるの」
「……っ、これは教会の総意ですニコラ。修道長も騎士団の申し入れを拒否しています」
「あら、どうして?」
そもそもわたくしの錬金術に関する話なのに、どうして今まで知らなかったのかしら。
ベロアが気まずそうに、顔を歪める。
「お嬢様は評判が悪いですからね。トラブルになることを懸念しておられるのでしょう」
「……錬金術師殿の、評判?」
「騎士様!今日のところはお帰りください!」
「お嬢様、教会は錬金術師がニコラ・ローレンスであることを隠していたのですよ」
なるほど?




