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「爺、これを使いなさい」
「おお、ありがとうございますお嬢様」
しばらくぶりに遊びにきた爺に湿布を渡すと、いたく感激されてしまいました。
「最近は庭仕事にせいを出しすぎて、腰にきておりましてな。助かります」
「園芸趣味も程々になさいな」
「いやはや、念願の自分の庭が手に入ったものですから。つい手を入れてしまうんですよ」
爺はずっと園芸をするのが趣味だったから、郊外にある新しい家の庭がいたく気に入っているようね。
屋敷にいた頃も、使用人達が使う裏庭なんで細々とハーブを育てていたりしたわ。
出来上がった物を時々素材としてもらったりして、わたくしはその見返りに肥料などを作っていた。
おかげで、錬金術の中でも植物を使ったものは特に上手く扱えるようになったわ。
「ニコラさん、これは何で作ったんですか?」
「ロクシカの枝からとった樹液と、ミルトよ。紙の部分は部分は樹皮を分解して再構築したの」
「……ロクシカ、教会には生えてないですよね」
「今後も教えを乞いたいなら、告げ口しないことをお勧めするわ」
リリーはわたくしが爺にモノを渡すとき、大抵近くにいます。
錬金術に並々ならぬ興味がある彼女は、わたくしがいつ錬金術を見せるかと注目し続けているのです。
字は読めるようなのだから、参考書の一つでも読んでおいた方が、今は得るものが大きいと思うのだけれど。
でも、そもそも滅多に流通してない錬金術の本が、教会の孤児に手に入るわけもなく。
わたくしの周りをうろついて、技を盗むくらいしか今できることはないのでしょうね。
自由に使える小鍋でもあったら、ごく初歩的な錬金術も可能になるかもしれないけれど。
錬金術の才能というのは、魔術と一緒で誰にでもあるものではありません。
まずは素質を見極めるところからなのだけれど、そこにたどり着くまでが大変よ。
体内にあるエーテルを自分で感じとり、操ることができなければお話にならない。
そしてエーテルの扱い方を知るには、魔術師の見習がやるような瞑想をする必要があるのです。
日がな一日、年下の世話をしながら騒がしい子供達と過ごしているリリーには、なかなか難しいでしょうね。
庶民の子供というのは、忙しすぎて自己研鑽の時間がほとんどない。
わたくしの脅しは、実によく効いたようでした。
錬金術にもっと触れていたいリリーは、それ以上追求せずに渋々と押し黙りました。
「お嬢様は相変わらず、おいたに躊躇がございませんな。しかしどうやって素材を手に入れたので?」
「ここは屋敷と違って、警備が甘いのよ。夜中に出るのは簡単だったわ」
「お嬢様、護衛も連れずに出歩かれるのはちと危ないですな」
「途中で知らない男に絡まれたけど、平気だったわよ」
わたくしが安心させようと思ってそう言うと、爺は珍しく白い眉毛を寄せて難しい表情をしました。
「欲しい素材があれば、この爺が取ってきます。ですから、あまりこの老人の寿命を縮めないでください」
「そこまで心配することないのに」
「お嬢様」
「わかったわよ」
どうも、爺には逆らえない。
屋敷の中で孤立しがちだったわたくしを、この老夫だけが気にかけてくれていた。
血の繋がりこそないものの、彼こそがもっとも世間で言う家族に近い存在なのでは、と思ったりもする。
そんなことを口に出して困らせるかもしれないので、爺には何も言っておりませんけれど。
今後内緒で採取をしにいく時は、ちゃんと防犯アイテムを用意しましょう。
新しいアイテムのレシピを考える時は、ワクワクしますわね。




