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召喚術士と世界樹の島  作者: 空野
1.白花と竜翼
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1-6


「座長、どうしたんですか?」


組合前の喫茶店で待っていたコンラートは、緑色の目を丸くしてルシャを見た。


「何かゲッソリしてますけど」


「食えない爺さん、怖い」


「……ああ、察した」


はは、と笑って、コンラートはルシャの頭をグシャグシャと片手で掻き回す。


「アンタだけで面会しろって言うから、どういう事かと思ったけど。やっぱり何か詰められたんすか」


「〝ルシャリーズ〟」


「……へぇ」


すぅ、とコンラートは笑みを引っ込めた。


そうして 2 人で喫茶店の前から歩き出しながら、溜息を零す。


「ま、ちょっとでも平原の国の反乱を知ってりゃね。座長と将軍は名前も年恰好もあまりに近い。一座の発足時期も将軍の追放と一致しますしねぇ。同一人物なんじゃないか、って、疑われたの、これが初めてじゃないっすよね」


「名前までは説明ができる。この年頃の男は、実際、神話のルシャリーズに因んだ名前が多いしな。でも目ばかりは……。将軍様と同じ色、ときたら……。こればっかりは、滅多にいる色でも

ないのがなぁ……」


目元を押さえて呟くと、ケラケラとコンラートは笑った。


「交換できるなら俺の目玉と交換してあげるんすけどねぇ」


ぽんぽん、と再び肩を叩かれ、思わず気の抜けた笑いを漏らしたルシャは、そこでハッとした。


「……あれ?宿舎ってコッチだったっけ?」


半年の公演の間、一座が借り切っている宿舎。

そこに向かっているつもりだったが、ふと気付けば見慣れない道を歩いていて。


「え?座長、分かっててコッチ来たんじゃないんですか?近道なのかな、って思ってたんですけど、俺」


ポカン、とコンラートは首を傾げる。


「……二人揃って迷子だな」


思わず額にルシャが片手を当てると、あちゃぁ、とコンラートは苦笑い。


「ええー。何やってるんですか」


「お前だって何やってるんだよ」


回りをきょろきょろと見て、ルシャは首を傾げる。


「ええと、今は春で、午後の……太陽の向きがあっちだから、とりあえず、あっちが海の方角で……」


「俺、座長のそういう生粋遊牧民な地理感覚ほんと大好きですよ」


「お前も同郷だろ」


「俺、母方は〝剣の国〟の出身なんで」


街中で道に迷って真っ先に太陽の方角は確認しないです、と肩を竦めると、コンラートは顎に手を当てる。


「知ってます、座長?こういう時はね、草原以外じゃ人間に訊くのが実は一番早いんですよ」


「……ソレクライ、ワカッテタヨ」


「へぇ」


愉快そうに笑って、道を行き交う人の中から、道を尋ねるのに良さそうな人間を探すコンラートに。


「ねぇねぇ、お兄さん達、迷子?」


先に、コロコロとした子供の声が、話しかけてきた。


「見かけねぇ顔だから、外国人でしょ!?」


振り向くと、鼻の頭に傷のある十歳前後の少年と、活発そうな短髪の少女、更にもっと幼い眼鏡の少年が立っている。


「え、あ、ああ。外国人だけど」


ルシャが咄嗟に頷くと、やっぱり、と弾む声音で少女が駆け寄って来る。


「だって、特にお兄さんとか!珍しい色の目だもんね!」


ルシャの鈍色の目を物珍しそうに見上げ、ねぇねぇ、と小首を傾げた。


「お兄さん、どこから来たの?東の果ての〝日の国〟の島?それとも、南の果ての〝雨の国〟とか!?」


「俺は」


「おい、サーヤ!」


鼻に傷のある少年が駆け寄って来て、少女の声を遮る。


「ちげーだろ!どっから来たかなんてイイから!道に迷ってる観光客はカモなんだから、案内してやって、お駄賃貰うんだよ!」


「あああ!それ言っちゃダメなヤツでしょ、ジャン!カモって言っちゃダメって、院長先生言ってた!」


「あ、やべ」


ハッと口を押えて、それから恐々と見上げて来る少年。


「はっは!カモか!俺達、カモらしいっすよ、座長!」


コンラートがゲラゲラと笑いだして、サーヤ少女とジャン少年はオロオロする。眼鏡を掛けた更に幼い少年だけは、何が可笑しいのかわからずにキョトンと、年上の連れ二人の服の裾を掴んで首を傾げていた。


「がぁがぁ。って、カモって、これで鳴き声あってます?」


「家鴨はそれであってるけど」


ルシャは苦笑いして愉快そうなコンラートの肩を叩くと、膝を折ってしゃがみ込み、子供達と視線を合わせる。


「観光客、というより、俺達、仕事で来てるんだ。昨日から公演してるサーカス団でさ」


「サーカス!知ってる!世界一の七華一座だ!」


サーヤが叫んで、気まずそうに視線を逸らしていたジャンも、ハッとしたように振り返る。


「まじかよ!有名なんだろ、すげぇ!」


「まじまじ」


コンラートも笑い止むと少し腰を折った。


「で、すげぇサーカス団なんだけど、お察しの通り、今は絶賛迷子でさ」


「駄賃は弾むから、二番街の、三階建ての貸別荘まで案内してくれないかい?」


ルシャは笑い、手の平を差し出す。


「ん?」


不思議そうに三人が手の平を見詰める前で、一度それを握り、反対の手で、パチンと指を鳴らすと同時に。


「はい、前賃」


「わぁ」


再び開いた手のひらの上に、飴玉が3つ。


「くれるの?」


「どうぞ」


「わぁ」


眼鏡の少年が真っ先に手に取り、嬉しそうに包み紙を取って口に放り込む。


「ああ!ルールー!だめ!知らない人のくれる食べ物、すぐに食べちゃダメだってばぁ!」


サーヤが慌てて振り向くが、もごもごと頬を膨らませてニコニコする当人は、まったく悪びれる様子も狼狽える様子もなく。


「毒は入ってないよ。虫歯にはなるかもしれないけど」


ふふ、とルシャが笑うと、ううん、とサーヤとジャンは顔を見合わせて暫し迷ってから、そろそろと一つずつ飴を手に取った。


「二番街の、貸別荘、だよな?」


飴をポケットに押し込みながら、ジャンはルシャの顔を見る。


「うん、そこに泊まってるんでね」


コクリと頷くと、よし、とジャンは二歩、石畳の道をルシャから離れて。


「前賃貰っちまったからな!近道で案内してやるよ!ついて来て!」


「私とルールーも案内するー」


サーヤがルールーの手を引いてジャンを追い掛けるので、ルシャも立ち上がった。


「ほら、早く!こっちだぜ!」


手を振ってさっそく歩き出す子供達に、はいはい、と返事を返し。


「コンラート。ほら、カモなんだから一列で付いて行くぞ、がぁがぁ」


「それは家鴨なんでしょ。一列でヨチヨチ移動するのはカルガモですよ、座長」


笑うコンラートと共に、ルシャは子供達の後を追いかけた。


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