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貧民街の裏市を見た翌々日が、森への出発の日だった。
「んじゃまぁ、よろしくっスねぇ」
護衛と、そして監視の名目で付いてくれたのは、世界樹の騎士団、竜葬のジスカ隊。
「今回は、名目上は俺達が座長さん達の護衛っすけど、実際には、座長さん達に俺達ジスカ隊の化物討伐クエストに同行して貰うって形っすねぇ」
森の島に渡る船の中で、前回大公演の日にチケットをスられたゾルタンが、今回の森での行動予定について説明してくれる。
「俺達ジスカ隊からは、ジスカさん含めて6人、座長さん達は5人。総勢11人行軍すね。で、二泊三日の予定っすけど、ひとまず今日は青の砦まで騎馬で行くっす」
港から島に渡るための船は二隻用意されていた。一つは人間が乗る為で、もう一つは、馬を運ぶためである。
「あ、一応確認するけど」
ゾルタンの横から口を挟んだのは、年嵩のヘンリクだった。どうやらジスカ隊最古参の一人らしく、副隊長であったらしい。
潮風に煽られる髪を片手で撫で付けながら、あんたらさ、とヘンリクは一座の5人を見回した。
「島の〝領域色〟はわかってる?」
「はいはい!あれですよね、島の中心、大世界樹を中心にして、同心円状に領域が分けられているんですよね?」
ヴィヴィエンが勢い良く手を上げてニコニコと言うと、途端、気怠そうだった目元はニッコリと上機嫌に細くなった。
「そーそー!よく知ってるねぇ!君、かわいいし物知りなんて最強だね」
うんうんとあからさまに声の調子が変わる様子に、おいおい、とコンラートが苦笑いする。
「で、島の中心から同心円状に分けられた領域って、全部で5色でしたっけ?外から順に無色の〝外線〟、初心者向けの〝青線〟、玄人向けの〝白線〟、サマナー以外は立入り申請の必要な〝赤線〟、侵入即ち自殺の〝黒線〟っと」
さりげなくヴィヴィエンの横に立ったティボールの言葉に、んあ、とヘンリクは一瞬で気怠そうな顔に戻って頷く。
「そうそう。で、各領域の一番外側には、東西南北の四か所に砦があんのよ。青の砦、とか赤の砦とかな」
砦は冒険者達にとっての森の安息所ということらしかった。
「ただし黒線には砦ねぇけどな。維持が不可能だ。歴史上、何度か建設は試みたらしいが、危険過ぎて断念したか、建物は作れたが数か月で放棄せざるを得なかった、とよ」
「あからさまに態度違うな、おい」
適当な声音にティボールがボソリと抗議するものの、ヘンリクは肩を竦めるだけで取り合わなかった。
「すみませんっス。ヘンリク、三十路に足を突っ込んでから、ちょっと婚期に焦ってるんすよ」
ゾルタンが申し訳なさそうに言った瞬間、ゴチン、とヘンリクの拳骨がその頭に炸裂する。
「うるせぇ。男は三十過ぎてからが渋みが増して全盛期なんだよ」
「この前は二十八が一番色気がーとか言ってたっすよ!?」
「色気と渋みは全盛期違うんだよ、うるせぇな!」
ぎゃぁぎゃぁとやり合う二人を、他のジスカ隊の面々はいつもの事だと言わんばかりにチラリと視線を向けただけで受け流すことにしたらしい。
「うるさいなぁ」
ピシャリと口を開いたのは、船の舳先付近にいたジスカだった。
間もなく到着する島の入り江を見たまま、やめなよ、と低く笑う。
「珍しぃ余所者だ。これからビビッて、来たことを後悔するかもしれない可哀そうな連中なんだからさぁ。せめてキッチリ説明してやりなよ」
喉を鳴らして笑う姿には、発言内容も相まって不穏な迫力があり、テオとヴィヴィエンがソワソワと目を見交わす。
「冗談だよ」
それを見たジスカは、フン、と鼻を鳴らして再び口角を上げた。
「狸ジジィの会長に、勝手に託された護衛業だけどね。それでも私だって仕事は遂行する。今回はアンタらの護衛も込みのクエストだ。ま、ちゃんと言う事聞いてくれれば、命の保証はしたげるさ、安心しな」
言う事きかないなら知らないけど、と付け足して肩を竦める。
間もなく、船は森の島に到着するところだった。
「外線から半日掛けて青砦にいく。そこで一泊。で、翌日は青線の領域に出たっていう、人喰いの化物退治。それさえ済めば速やかに帰還って予定だ」
ジスカは肩に下していた頭巾を被り直し、完全に体ごと島の方を向く。
島を睨むようなその背を見て、何となく皆が背筋を伸ばした。
「さて、余所者は守ってあげるけど、森に慣れてる身内の面倒まで見る気はないよ。休暇は終わりだ。気合入れな、クズども」
ふふ、と笑うような声に、ジスカ隊が一斉に吼えるような声を上げる。
「おお、いいねぇ、大迫力」
コンラートが笑って、パチリと、ルシャは目を瞬いた。
次回更新:5月2日(日)13時予定




