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お悩みの殿下



「ねぇ。メルデル。私が……」


 晩酌を終わらせてベッドに入る。いつも一度横になると背を向けて、そのまま眠りに落ちるサラサンが寝返りを打って、メンデルの鼻先に顔を寄せた。

 パーティーで口付けされた感覚を思い出して、彼女は視線を合わせることができなかった。だから、彼の苦しげな表情も見えず、何か言いかけようとしていることにも気がつかない。


「なんでもないわ。おやすみ。メルデル」


 顔を背けたままのメンデルの頭を撫でると、サラサンは再び寝返りを打って、彼女に背を向けた。


 --なんでもない?え?


 逆にわざわざなんでもないといわれたことが気になって、メルデルはその背中を見据える。けれども、サラサンが再びこちらを見ることはなかった。


 --こういう時、聞いたほうがいいのか。どうなのか?でも聞いて欲しくないことなら

 

 結局迷ってしまい、そういうしているうちに眠気が訪れ、メルデルはサラサンの背中を眺める形で眠りに落ちてしまった。


「……殿下?」


 目覚めるのはいつもメルデルが先で、サラサンを起こすのが彼女の朝一の仕事だった。

 けれども今朝起きると、隣には誰もいなくて、彼女は思わず彼が寝ていた場所を触ってしまう。ひんやりとした感触がして、かなり前にサラサンがこのベッドからいなくなったことを悟る。

 それに少しだけ寂しさをかんじていると、扉が軽く叩かれた。


「メルデル妃殿下。入っても構わないでしょうか?」

「はい」

 

 サラサンであれば扉を叩くなどしないのに、もしかしたら彼かもしれないと期待してしまった自身に苦笑しつつ、メルデルは返事をした。

 まもなく侍女が入ってきて、窓をあけたりと支度を始める。


「……殿下の行方をしっていますか?」


 言葉使いを気をつけなければ、少し乱暴な物言いになってしまう。その癖が抜けないメルデルは硬い口調のまま尋ねる。言いよどんだ侍女に対して、サラサンがどこにいようがメルデルには関係ないと思い直して、先ほどの質問を撤回しようとしたのだが、侍女が先に口を開く。


「…今朝は早くに人を会う約束があったのです。すぐにもどって来られるはずです」

「そうなのか」

 

 侍女の答えに安堵したメルデルが思わず素で答えてしまい、しまったと口を押さえる。すると侍女は微笑んだ。


「わたしどもを気にすることはありません。どうか自然体で。メルデル妃殿下。伯爵様であられた頃、私は憬れておりましたのよ」


 ほほほと微笑まれ、メルデルは思わず照れてしまう。


「いつも毅然となされていて、とても冷たい方かと思ったのですが、サラサン殿下と話されるときはとても優しい顔をなされていて、お似合いだと思っておりましたの」

「……え?」

「まさか、女性だったと。でも女性で本当によかったです」


 最後はそう締めくくられたが、何やら不埒な想像をされていたのだと思うと、微妙な気持ちになってしまった。

 それが表情にでていたらしく、侍女が慌ててメルデルに詫びを入れた。

 

「口が過ぎました。お許しください」 

「大丈夫だ。私は気にしていないから」

「よかったです。お着替えをお持ちいたしますね」


 侍女は深々と頭を下げると、部屋を出て行く。

 

 --そんな風に見えてたんだ。私は。


 無我夢中で男を演じ、伯爵として領地を治めてきた。周りの評価など気にする余裕はなかった。


 --だが、殿下を話をしているときは優しい顔とは

 確かに殿下の物腰や話し方が柔らくて、この人の前で緊張しなくてもいいのだと安心したことはあったけど、そんな顔をしていたなんて不覚だ。


 悶々とかんがえていると侍女が戻ってきてドレスを着せられる。当初は着替えを人に手伝って貰うことに抵抗があったが、ドレスがいかに着るのが難しいか知って、メルデルは侍女に丸投げすることにしていた。 

 今日のドレスは薄い緑色。ちょうどメルデルの瞳と同じ色だった。


「メルデル。おはよう」


 着替えを済ませたところで、サラサンが部屋に戻ってきた。


「おはようございます。殿下」

「今日は人を会う約束があったのよ。私がいなくて驚いたでしょう?」

「はい」

「もう、可愛いわね。メルデル」


 両手で頬をもられて、しゃべることができない。サラサンの口調はいつものおどけた感じ。けれどもその青い瞳にどことなくかげりが見えた。


「で、殿下。何かありましたか?」


 必死に口を動かして尋ねると、彼は驚いたように彼女から手を離した。


「なんでもないわ。お腹へっちゃった。一緒にたべましょう」

「はい」


 なんでもないと答えられたら、もう聞けない。

 メルデルはただ頷き、朝食をとることにした。


 その日からサラサンの様子はおかしくなった。

 本人に聞いてもなんでもないというので、メルデルは探ることにした。

 まずは情報収集だと、侍女から話を聞く。何か知ってるはずなのに話さない彼女にしびれを切らして、メルデルは侍女に化け自分自身で情報を得ることにした。

 メガネをかけて、茶色の髪の鬘を被った。

 そうして得た情報がとんでもないもので、メルデルは愕然とするしかなかった。


 ーー様子がおかしくなったあの日の朝、サラサンが第一王子の妃と会っていた。

 第一王子と第二王子のサラサン、そして妃は幼馴染で、最初は年が近いサラサンと妃が親しげだったこと。


「男好きで女嫌いだけど、例外もあるってことだ」


 パーティーでの妃の視線、それを考えるとメルデルは妃がサラサンのことをまだ好きではないかと考えてしまう。


「殿下もまだ、きっと好きなんだ」


 そう思うと胸がなんだかざわさわして、落ち着かない気分になってしまった。

 

「だが、妃はすでに第一王子の妻だ」


 お互いに思っていても、無理だということだ。


 ーーだからもどかしい思いを抱えて、殿下の様子はおかしかったのか。けど、私になにができるのだ?


 考えてみたが名案が浮かぶことはなかった。

 そんな中、第一王子の妃からお茶に招待された。サラサンは不満そうな顔をしたが、メルデルは招待をうけることにした。

 

 

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