オネエな王子は無自覚な男装伯爵に翻弄される7
「聞きましたわ。部屋にお誘いしたのですよね?」
「サラサン、それは余りにも早いぞ!」
お茶会の後、余韻に浸ってあれこれ考えていると、サラサンの部屋に兄夫妻が乱入してきた。
第一王子は彼と違って忙しいはず、その妃も同じく。
彼の部屋にそうそう来る暇などないはず。
しかもなぜか前のめりな態度で、サラサンは少し撫然としてしまった。
「ラリア、なぜ、あなたが知っているの?兄上、早いって別に何もするつもりはないのよ」
下心たっぷりに誘ったのは事実だったが、今となっては多少反省しており、手を大きく振りながら反論する。
「サラサン殿下。私の友人が今日のお茶会のことを詳細に教えてくださいました。随分、仲良くされていたようで」
「仲良く……。そのキャンドラ伯爵は大丈夫なのか?」
「ああ、もう。嫌になっちゃうわね。全部筒抜けなのね。ラリア」
義姉に頼んだのは間違いだったかとサラサンは眉をひそめ、その後、兄には弁解する。
「兄上、何もないんだから。ちょっと髪に触れてもらって嬉しくなったりしたけど、それだけなの。部屋に誘ったのも「彼」が私の部屋にあるシュロソに興味があるみたいだったから」
「シュロソ?」
「ああ、あの葉のことですね。キャンドラ伯爵はこういうものに興味があるのですね」
兄は首を傾げたが、ラリアはすぐに窓のそばに置いてある鉢を指した。
「シュロソは珍しいもの。香りが好きで置いていたけど、よかったわ」
「……おかしなことに使わないでくださいましね」
「おかしなこと?危ない葉なのか?」
目を細めて釘を刺すラリアに、逆に目を見開いて聞いたのが兄だ。
政治や武芸には詳しいが植物には全く興味がない彼はシュロソの効用を知らない。
「気持ちを落ち着かせるにはいい香りよね。ラリアは本当博識だわ」
「褒めいただきありがとうございます。早まったことをなさいませんように」
「早まったこと?媚薬か何かなのか?」
「兄上、そんなおかしな葉を私の部屋に置くわけがないでしょう?ただ安眠効果があるだけよ」
「安眠効果……睡眠。サラサン。お前は第二王子だ。おかしなことをしないよな?」
「兄上!失礼しちゃうわ。そんなことするわけないでしょう?」
ラリアにはおかしな誤解をされても納得はするが、兄にまでそんなことを言われて、サラサンは口を尖らせた。
「部屋に誰か潜ませていたほうがいいかもしれませんわ」
「ラリア!」
真顔で兄嫁が助言をして、サラサンは非難の声をあげる。
「ラリア。それは余りにもやり過ぎだ」
ザッハルは妻を諭し、サラサンを真正面から見つめた。
「サラサン。好きな相手の意志を曲げて、己の目的を達成することはいいことじゃないぞ」
「わかってるわ。兄上。シュロソはメルデルが見たいと言っていたから、見せるだけよ。欲しいなら株分けしてあげてもいいわ」
一瞬だけ、シュロソの睡眠効果を使って事に至ることを考えたことがあった。
けれどもそれはメルデルを汚すことになり、嫌われるに決まっている。
兄に答えながら、サラサンは自分に言い聞かせていた。
☆
二週間後、サラサンはメルデルを部屋に招いた。
お茶会から翌日に待ちきれずに招待状を出した。けれども日時は「彼」の仕事を考えて二週間後に設定した。本来ならすぐにでも会いたかったのだが、忙しそうなメルデルに配慮した形だった。
部屋の扉を叩く音がして、使用人がメルデルの到着を伝える。
早る気持ちを押し込んで、サラサンは平静を装って入室許可を出した。
「サラサン殿下。本日のお招きありがとうございます」
部屋に入ってくるなり、メルデルは礼儀にかなった挨拶をした。
「こちらこそ、来てくれて嬉しいわ。お茶の前にシュロソの葉を見る?」
「はい」
緑色の瞳を輝かせて頷かれ、その可愛らしさに悩殺されながら、サラサンは理性を保つ。
「ここよ。日当たりを考えて窓の近くに置いているのよ」
窓際に立つサラサンの隣に恐る恐るメルデルが近づいてきた。
ぎゅっと抱きしめたいという欲望を抑え、彼はメルデルをそっと観察する。
「彼」はそんな視線に気がつかないまま、夢中になってシュロソの葉を見ていた。腰を少しだけかがめて、首を傾げながら葉の面裏、茎などを確認する。
目に飛び込んできた襟足は意外に白くて、その艶めかしさにサラサンの欲望がもたげてきた。
(ダメよ。ダメ)
「め、メルデル。触りたいなら触ってもいいのよ。毒はないから」
「ありがとうございます」
「彼」はサラサンの気持ちにまったく気がつくことなく爽やかに礼をいうと、シュロソの葉に触れる。メルデルの指先が細くて綺麗で、その指が自分の髪に触れたことを思い出して、サラサンは目眩を覚えた。
(もうサラサン。落ち着くのよ)
「メルデル。お茶を飲みましょう。新しいお茶をもってきてくれたのでしょう?」
「はい」
新しく調合しているお茶があると前回のお茶会の時に言っており、それを今日持ってくるという話を手紙で知らせてもらっていた。お茶でも飲んで気持ちを落ち着かせようと提案したが、夢中になっていた「彼」の邪魔をしてしまったかもしれないと少しだけ後悔する。
「シュロソを株分けしてあげるわ。家でじっくりみたいでしょう?」
「いいのですか?」
よほど嬉しいらしく、メルデルの頬は上気して薔薇色に染まっていた。
(ああ、これは試練ね。サラサン。耐えるのよ。ここで抱きしめたり、キスしたら、嫌われちゃうんだから)
「勿論よ」
その代わりにあなたを頂戴、という考えがよぎったが、それをかき消してサラサンは答えた。




