オネエな王子は無自覚な男装伯爵に翻弄される5
兄に招かれ、サラサンが部屋に入ると、彼はすぐに妻への使いを出した。その後、喉が渇いただろうとお茶を運ばせる。
ザッハルの好意に甘えてお茶を味わっていると、彼が話を切り出した。
勿論人払いはしている。
「昨日は叔父上に絡まれて災難だったな」
「うん。もう、本当。しかも父上に余計なことを言ったみたいで、困るわ。本当。でもね。颯爽とメルデルが前に出て、かっこよかったのよ。その後、ちょっと照れたのは可愛くて食べたくなっちゃったわ」
「サラサン!それはやめてくれ」
「わかってるわよ。食べるときは了承を得るから」
当然だとサラサンは焦る兄に力説する。
けれどもザッハルは頭を抱えただけで、納得している様子はない。
「もう兄上まで。私は私の生き方を曲げる気はないけど、兄上には味方でいてほしいわ」
「もちろんだぞ。ただ、その食べるというのはなあ、ほらあれだ。色々場所とか」
「あったり前よ。もうそうなった時には場所は考えるわ。雰囲気も大事だし、ゆっくりしたいしね」
「サラサン……」
それ以上何も言えないとばかり、兄は脱力し、サラサンは何が悪いのかと首をかしげる。
「殿下。先を急ぎすぎですわ」
扉をたたく音を聞き逃したのか、はたまた勝手に入ってきたのか、ラリアが咳ばらいをして登場した。
「別に急いでなんかないわ。私とメルデルはまだ清い仲よ」
「そのまま清い仲でいてくれることを祈っております」
「なに?ラリアは反対なの?」
「ええ。可愛らしいキャンドラ伯爵には清いままでいてほしいですわ」
「ラリア、あなたもメルデルを狙ってるの?」
「そうなのか?」
二人の会話を見守っていたザッハルが少し眉間に皺を寄せて言葉を挟む。
「ザッハル殿下。そんなことあり得ません。ただキャンドラ伯爵は純粋で清らかな存在なので、汚されたくないだけなのです」
「ひどいー。汚されるってなに?」
ラリアは時折ぐさっという物言いをして、サラサンの心を傷つける。
だから苦手な存在でもあり、今日も兄に頼んで呼び出したことを後悔していた。
「言葉の例えです。他意はありません」
「他意ばかりじゃないの」
「ラリア。少し言い過ぎだぞ。汚されるとか……なんというか」
「申し訳ありません。ザッハル殿下。サラサン殿下、言葉が過ぎましたわ。申し訳ありません」
思い切りのいいところが兄の妃であり、こう謝られたら何も言えないとサラサンは謝罪を受け入れた。
「許してあげるわ。私は心が大きいから。それよりも、二人に確認したいころがあるのよ」
「何だ?」
「何のことでしょうか?」
気分を害したがラリアに来てもらった用事を済まさねばと、彼は話を切り出した。
☆
「……時期はまだ早い」
「そうですわ」
サラサンの問いに二人はそう答える。
「どうして?」
「まだ父上も若い。退位するにはそれなりの理由がいるだろう。歴代の王で存命中に王位を譲った方はいない」
「ええ」
ザッハルの答えにラリアは頷く。
部屋には完全に三人だけで、彼女は自らお茶を入れて二人の王子のカップにもお茶を注いだ。
「理由は、叔父上よ。あんな無能、いえ有害な人を王宮に出入りさせて、会議にも参加させて、本当問題でしょう?」
「仕方ないだろう。叔父上は王弟であり、第三王位継承権を持っている。それにまだ大きな問題を起こしていない。今のところ、無害だ」
「今のところね……。ラリア、どうにかならないの?」
「父も色々考えているらしいのですが、今のところは……」
「はあ。もうしばらく我慢しないといけないのね」
「……そうだな。あまりに酷いことを言うなら、それを元に」
「それは必要ないわ」
カスキスと同様に下種な想像をしている輩がいることをサラサンは知っている。もし叔父に何か処罰を与えることができればほかの者への牽制にもなるはずだった。
けれども、現時点でサラサンはそれを望まなかった。
(あんなこと言われたくらいで傷ついていたら、こんな生き方はできないわ。私は生きたいように生きるの)
「それならいいが」
「サラサン殿下。私もできる範囲でお手伝いしますわ。あの方は私にも余計なことを言ってくるので、少しお仕置きをしたいと思っているので」
「お仕置き……。ラリアが?」
「兄上。何想像してるの?いや、やだ。二人はそんなことしているの?」
「な、何を考えているんだ。サラサン!」
「サラサン殿下。失礼ですわ」
「ふふふ。お返しよ。まあ、あなたの叔父上へのお仕置きを楽しみにしてるわ」
口を歪めたラリアを見て、サラサンは先ほどの「汚される」の仕返しができたとニンマリ笑う。同時にラリアが叔父にどんなお仕置きをしてくれるのかと、楽しくなった。




