オネエな王子は無自覚な男装伯爵に翻弄される4
結局夜会の終わりまでサラサンはメルデルと共に貴族と歓談することになってしまった。元から令嬢とダンスなどする気もなく、メルデルと話すことが目的だった彼にとっては大満足な結果だった。
「メルデル。ごめんね。今夜もつき合わせちゃって。色々邪魔しちゃったわね」
「殿下。とんでもありません。邪魔どころか、多くの方をご紹介いただき本当にありがとうございました」
不安になって確認すると「彼」からそう返事が返ってきて嬉しくなる。
「本当?よかったわ。だったら次の茶会でも誰かを紹介してあげるわ」
次の機会を作りたくて思わず言ってしまって、サラサンは少し後悔する。社交の場は噂の種をまくところであり、おかしな噂をまた立てられるかもしれないと苦虫を噛み潰した気持ちになった。
今回の夜会でも、叔父のように邪推する輩もいるかもしれない。
確かに邪な思いはあったが、実行には映しておらず、メルデルとはまだ清い関係なのだ。
真面目な「彼」にも迷惑をかけたくないと、色々思案していると「彼」の言葉を聞き逃したことに気がついた。
「メルデル、何て?」
「いえ、あの。そんなに気を使っていただかなくても大丈夫です。殿下はあまり社交の場がお好きじゃないのですよね?」
サラサンのほうが少し背が高いので、メルデルは少し見上げる形になる。
上目遣いで少し頬を赤くして聞かれてしまって、「彼」の優しさとその可愛らしさで、サラサンはその場で倒れそうになった。
(なんて、可愛いの!しかも私が社交の場が苦手なことに気がつくなんて!)
「でも、ほら。あなたのために頑張るわ!」
「え、頑張る?殿下が?」
「ええ」
思わず本音を漏らしてしまい、目の前のメルデルは目をぱちくり見開く。
(もう、可愛い。だめ、食べてしまいたい。だめよ。サラサン。早まったら)
脳内で兄と義姉が止めてくれて、なんとか理性を保つ。
「いえ、ほほほ。いいのよ。気にしなくても」
「それであればよろしいのですが……」
腑に落ちないという表情をされてしまったが、サラサンは笑って誤魔化した。
その夜別れ際に、次の茶会で会う約束もして、彼はその夜興奮しすぎてまた寝られなかった。
☆
「サラサン。昨晩は何やらあったようだが」
翌朝父に呼ばれ王室に出向いた。
そこで待っていたのは渋い顔をした王で、彼は色々想像して苦笑する。
「別に何もないわよ。父上。叔父上に何か吹き込まれちゃった?」
「吹き込まれるなど、あれはお前には少しきつく当たるようだが、悪い男ではないぞ」
父は相変わらず弟のカスキスを全面的に信頼しているらしく、サラサンを諭そうとする。
(本当、父上は人を見る目がないわ)
現在父の周りを固める重鎮たちは先代の王から仕えている者が多く、カスキスに対してもその評価は厳しい。だから父がカスキスを持ち上げても、国は揺るぐことはない。
けれども重鎮たちは高齢化しており、引退してもおかしくない年齢でおり、サラサンは心配していた。
(早く兄上に王座を譲ってくれたらいいんだけど。兄の傍には小賢しいラリアがいるし、そのほうがいろいろ安心できるのに)
「サラサン、聞いているのか?」
「え、聞いてるわ。お父様」
実はまったく話を聞いてなかったのだが、彼はにっこりと笑ってはぐらかそうとする。
母そっくりの顔なので、父はその笑顔を見ると癒されるらしく、毎回うまく誤魔化されてしまう。
(王がこんなにちょろいのは問題よね。本当)
そう思いながらも説教は御免なので、早々と王室から逃げるように立ち去った。
「サラサン」
「兄上」
部屋に戻る途中で少し駆け足の兄に呼び止められた。
「大丈夫だったか?」
かなり急いでいたらしく、兄の髪は少し乱れていて、幾分荒い息を吐く。
「ありがとう。心配してくれて。大丈夫よ。ここじゃなんだから、部屋で話しましょ」
「そうだな」
「ラリアとも話したいから、兄上の部屋でいいかしら?」
「めずらしいな。いいだろう。部屋に着いたら使いを出そう」
弟の申し出にザッハルは眉を少しあげて意外そうな顔をした。




