オネエな王子は無自覚な男装伯爵に翻弄される2
「サラサン。珍しいな。お前が夜会に参加するなんて」
「ふふふ」
「ザッハル殿下。サラサン殿下は会いたい方がいらっしゃるのです」
「なんで知ってるの?本当嫌になっちゃうわ」
兄夫妻とお茶をすることになり、サラサンは早速後悔していた。
子どもの頃と違って言い争いをすることはなくなったが、兄ザッハルの妃ラリアには何かと苦手意識があったからだ。
「俺はラリアがいろいろ知っていて助かってるぞ」
けれども兄ザッハルはラリアに心底惚れていて、眉を顰めて嫌そうな顔をする彼の横で、妃への援護に回る。
援護というより、それは惚気に近かったが……。
「まあ。ザッハル殿下。それは嬉しいですわ」
頬を薔薇色に染めて答えるのはラリアだ。
当初サラサンは、ラリアのこのような反応があざといと感じていたのだが、どうやら彼女は計算ではなく本当に照れている。
そう気がついたのはここ数年前だ。
ラリアの初恋の相手が自分自身であることをサラサンは知っている。
彼は女性という存在が好きではなく、ラリアに対しても同じで好意を返そうと思ったことがなかった。兄が大切にしているので、敬意を持って接している、それくらいだった。
サラサンのそういう気持ちは彼女にも伝わっていて、ラリアは彼を諦め、ザッハルに気持ちを移していった。
最初は宰相に命じられ、ザッハルへ答えていると邪見していたのだが、本当に兄のことを心から愛していることがわかり、彼は心底ほっとしていた。
「サラサン。会いたい方とは誰のことだ?どんな奴だ?ラリアに聞けばわかると思うのだが、お前から直接聞きたいのだ」
彼のことをよく理解している兄は、会いたい人が女性であるとは限定していない。もしろ男性であることを念頭に置いているようで、溢れんばかりの好奇心を隠そうともせず聞いてきた。
「ラリアがもう知っているのは癪だけど、私から話すわね。メルデル・キャンドラ伯爵よ。あのお茶が美味しいところの伯爵。ものすごい可愛いの」
「可愛い……伯爵?」
「そう可愛いの。もうぎゅっと抱きしめたいくらい」
「サラサン。それはやめておけ。本当に。引くぞ。相手が」
「そうですわ。絶対にやめてくださいね」
顔を若干引きつらせて兄が止め、その妻ラリアがサラサンを諭す。
それがなんだか猛獣か何かに思われているようで、彼は面白くない。
「あったり前でしょう?そんなこと。ぎゅっと抱きしめたい時は了承を得るわ。当然よ」
「了承……?」
「王族の権威を盾にとるつもりですの?それもやめてくださいませね」
大威張りで言い切ったら、今度はそう諭され、サラサンは完全に拗ねるしかなかった。
☆
そうして夜会の日がやってきた。
この日のために、サラサンは服を新調した。
メルデルの瞳の色である薄緑の生地でコートを仕立てようとしたのだが、なぜかそのことを知ったラリアに止められ、薄青色の生地に仕方なく切り替えた。
ラリアからあからさまにメルデルへの好意を服装で表すなど、「彼」にも迷惑がかかると説得された形だ。
王族は夜会が始まってから登場することになっている。
こっそり会場にいってメルデルの姿を見たいという気持ちを抑え、サラサンは兄たちと控えの間で待機する。父である王がサラサンがヤキモキする理由を知り、大きなため息など付いていたが、彼は素知らぬ振りをして出番を待った。
そして声がかかり、やっと大広間の扉が開く。
サラサンはすぐに広間を見渡して、メルデルの姿を探した。
(見つけたわ)
男性にして背が低いほうのメルデル。
女性に囲まれていて、柔らかい微笑みを浮かべていた。
それが面白くなくて、すぐに飛んでいきたかったが、すでにそれは読まれていたらしく、ザッハルに捕捉された。
「王族のお前自らが王の挨拶を無視するつもりか?相手は逃げるわけでもない。じっと待ってろ」
「わかってるわ」
兄に他の者には聞こえないように囁かれて、サラサンは静かに頷いた。
普段の彼は物事に冷めていて、このように焦る気持ちを表すことはない。そんな自身に少し驚きながら彼は父の挨拶が終わるのを待つ。
「それでは皆の者、楽しまれよ」
朗々とした声でそう締め、王の挨拶が終わる。
宮廷楽団の演奏が始まり、サラサンはそれ以上待ちきれず歩き出した。
「メルデル!」
「殿下」
令嬢に囲まれていたメルデルは、彼に名を呼ばれかなり驚いたような顔をしていた。
緑色の瞳がまん丸に見開かれ、可愛らしい、愛でたいという感情を抑えるのに苦労する。
「彼」の周りに集まっていた令嬢たちは、サラサンの登場に戸惑っているようだった。
見目は美しく、第二王子でもあるサラサン。
しかしながら、彼が男色家であることは周知の事実で無謀にも彼に言いよる女性はいなかった。しかし公式の場にはあまり姿を見せないため、令嬢たちはその美しさに見惚れてその場を動けないでいる。
「会いたかったわ」
サラサンは颯爽とメルデルに近づき、まるで周りの女性を威嚇すように、ぐるりと令嬢たちを見渡した。それから止めとばかり微笑む。その笑みは極上で、周囲からため息が漏れる。
彼はその反応に慣れているので何も感じないが、当のメルデルが少し顔を赤らめていたので嬉しくなった。
「メルデル。二人で話をしたいの。いいかしら?」
攻めが基本だと、サラサンは間髪おかず誘いをかける。
それに令嬢たちから黄色い声が上がる。もちろん夜会であり、淑女教育を受けている者ばかりなので、控えめだ。でも興味津々とばかり、視線は二人に釘付けだ。
「はい。私でよければ」
戸惑いながらもそう答えられ、サラサンは飛び上がりそうな気持ちを抑えた。




