彼女が男装を続けた理由2
それから5年後、伯爵は馬車の事故に巻き込まれ命を落とした。
悲しみにくれる時間はなく、メルデルは「長男」として自動的に伯爵の座についた。
彼女が15歳という年齢で領主になり、一部の領民たちに不安を持たれたが、メルデルはそれを実力で抑えていった。
当時執事であったベッヘンとその見習いのジャミンの力を借りながら、彼女は前領主と同様に領地を治めた。
治めている間、小さな問題が起きたが、領地は平和に保たれた。またメルデルは自身も参加して、茶の品質向上に努めた。その結果、キャンドラ領地のお茶は知名度を上げ、領内に買い付けにくる業者も出てくるくらいだった。
「すごいですよ。メルデル様」
「ありがとう。いや、私が礼をいうことではないな。領民がよい茶葉を育ててくれ、お茶を作る過程においても丁寧に仕事をしてくれる。だからこそ、うちのお茶が王宮で飲まれるようになったのだ」
「確かに領民の努力は外せないでしょう。けれども流通に関してはメルデル様の才覚ですよ」
「そ、そうか?そう言われると嬉しいな」
メルデルは幼馴染で執事見習いのジャミンに褒められ、微笑む。
すると、彼はそっぽを向く。
領主になってから1年ほどたって彼女の幼馴染の態度が急に他人行儀のものになってしまった。
それを寂しく思いながらも言い出せず、メルデルは彼の横顔から顔を逸らした。
「明日は王宮に行く日だ。なので留守を頼むな」
「はい。お任せください」
もはや見習いの看板を外してもいいのではないかと思えるほど、ジャミンは執事として完璧だった。それに触発され、メルデルも領主として勤めを果たそうと努力を続けた。
夜遅くまで書類を作成したり、馬に乗って領地を見回ったり。
そんな忙しい中、母は時折、男装をやめないかと提案してくる。
「母上。カイゼルが成人したら私は伯爵であることをやめる。だから安心して」
メルデルは母にそう返すが、その度に悲しそうな顔をした。
(カイゼル、母上。私はあなた方に伯爵の座を譲る。そうしたら領地を出るつもりだ。母上に煩わしい思いをさせることもない。なのでもうしばらくこのままで)
爵位を継ぎ忙しくなったが、小さい時からの努力が実を結んだ気がして、充実した日々を過ごす。
また領主として領地を歩いていると、父と一緒に視察したことなどを思い出し、笑顔の領民を見ると父に褒められている気がして嬉しくなった。
王宮においては、ほかの貴族たちを会話をするのは億劫なことであるが、積極的にお茶の宣伝のためと社交の場に参加した。夜会などにも時折参加して、女性に絡まれることもあって大変なこともあったが、刺激的でもあり、メルデルは男装伯爵の生活を楽しんでいた。
弟のカイゼルが成人になるまで、彼女はこの生活を続けるつもりで、まさか2年後に女であることがばれて、しかも第二王子の妃になるなど、この時の彼女にはまったく想像できないことであった。
「それではお気をつけて」
「ああ」
現執事のベッヘン、見習いのジャミンに見送られ、メルデルは馬車に乗り込む。
「あら、初めまして?かしら」
その日、王主催のお茶会にメルデルは少しだけ遅刻した。そのために目立ち、第二王子に声をかけられる。
噂には聞いており、遠目からは見たことがあったが、話しかけれるのは初めてで彼女は緊張しながらも挨拶を返す。
話し方は柔らかく、その笑顔もとても優しそうで、彼女は好印象を持った。
それがメルデルとサラサンの出会いであり、ここから二人の友情が始まることになる。




