男装伯爵の幼馴染
女みたいに綺麗な子どもだ。
ジャミンが初めてメルデルに会ったとき、「彼」に対してそう思ってしまった。
思わず言葉に出してしまい、顔を真っ赤にして怒らせて、殴られた。
華奢な体つき、その腕も細いのに、その拳はジャミンの顔を見事に捉え、最後の乳歯が抜けるくらい威力があった。
我に返ったメルデルに謝られ、痛さもあって許すものかと思ったのに、その泣きそうな顔に魅入られてしまい、結局ジャミンは許してしまう。
それが、彼と男装伯爵の出会いだった。
最悪とも言える出会いなのだが、二人の関係は良好だった。
真面目で優しく、身分に問わず公平なメルデルをジャミンを尊敬していた。
華奢な体つきを気にして、鍛えようとしているところなども、好感が持てて、ジャミンが「彼」を生涯の主人と決めてしまった。
14歳になり彼は養父のベッヘンについて執事見習いをし始めた。
「そんな話かた、お前らしくないぞ」
「俺は、いえ、私はあなたの力になりたいのです。今のままでは単なる幼馴染の使用人のまま。なので、私のあなたが男爵となった暁には、執事として傍にいたいのです」
「それは頼もしいな」
薄緑色の瞳を細め、メルデルは口元を少しだけ緩める。
沈みゆく太陽の光を浴びて、なんだか目の前の主人がそのまま消えていくような気がして、ジャミンは思わず「彼」の腕をつかむ。
「痛いぞ。なんだ、乱暴だな」
儚く見えたのが噓のように、メルデルは顔をしかめ彼を睨みつけた。
「すみません」
消えてしまいそうだったなんて言えるわけがなく、ジャミンはただ謝った。
それから2年後、彼は主人の秘密を目にしてしまう。
3年前メルデルの父が突然の事故でなくなり、「彼」が伯爵家当主になる。
「長男」であるのだから、当然で「彼」はそのために努力をしていた。
忙しいメルデルを気遣い、ジャミンは「彼」の力になろうと小間使いのような用事もすることになった。
仕事に集中すると食事をとらないこともあるので、ジャミンが強制的に「彼」に食事をさせる。出された食事を残るような真似をするメルデルではないので、規則的に食事をとる。
「悪いな。こんなことまでさせて」
「全然です。執事見習いの仕事の一環ですから」
「そうか。ありがとう」
メルデルはその緑色の瞳を和らげるとふわりと微笑む。
「彼」の笑顔はとても綺麗で、ジャミンはいつも見惚れそうになり、慌てて顔を逸らす。
その度にメルデルが少し悲しそうな顔をするのだが、あなたの笑顔を見るとドキドキしますなどいえるわけがなく、彼は気づかない振りをして話題を変えたり、仕事があると退室するのが常であった。
そんな日々の中、ジャミンは偶然に「彼」の秘密をみてしまう。
男手が足りず、彼は屋根の修繕を一人でしていた。
執事見習いであるのだが、修繕作業もなんでもこなす必要があると、彼はベッヘンになんでも教えられていた。
雨季の時期もあるからと、早めの修繕を頼まれジャミンは一人で屋根にのぼっていた。
それをみたのは本当に偶然だった。
たまたま、うっかりメルデルの部屋の窓をのぞいてしまい、彼は衝撃的な事実を知った。
ショックと興奮で、屋根から落ちずに済んだ彼は本当に幸運だったかもしれない。
小麦色の肌、少し膨らんだ胸部。
一瞬だったにも関わらず、彼の目に焼き付いたメルデルの……。
男だと思っていた主人が女だった。
その事実は彼にとっては衝撃的だった。けれども思い当たる節はたくさんあり、同時に納得もできた。
彼が抱えていた思いも、「彼」が彼女だとわかり、一気に形になった。
(メルデル様が好きだ。異性として)
けれどもジャミンは自身の気持ちを明かすことは、彼女の秘密を知っていると伝えるようなことだと思い、隠し続けた。
その微笑みに、華奢な首筋に何度も誘われ、道を外しかかりそうになった。
メルデルの態度は以前と変わらない。
それが悔しいくらいだったのだが、彼は彼女の傍に一生い続けることができると信じて耐え続けた。
けれども、彼女が18歳の時、彼の希望は砕け散った。
元々からメルデルをお茶に誘うことがあった第二王子サラサン。
男色と噂がある美しい王子。
それが、なんとメルデルを女性として妃にしてしまったのだ。
その話を聞いて、ジャミンの頭は真っ白になった。
妹のジュリアもメルデルに憧れていたのでショックを受けている様子だったのだが、立ち直るのは兄よりも早かった。
「お兄ちゃん、メルデル様が女性だって知っていたら」
「メルデル様は領主様だ。どうにもできるわけがないだろう。だから、俺は……」
彼が完全に立ち直るのは、それから半年後。
少しだけ変態がかった恋人を得た時だった。




