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間者の正体2

 翌朝、メルデルはサラサンよりも先に目を覚ます。

 気持ちよさそうに寝ているので、邪魔をしないように体を起こした。

 身支度を整えると扉を開けて、通りかかった使用人にサラサンを起さないように伝える。それから隣の部屋で待機している侍女にも同様に伝えると、食事をとるため食堂に向かった。


「おはようございます。メルデル妃殿下」

「おはよう。ケリー」


 そう挨拶をしてきたのは、数か月前から屋敷で働いているケリーだ。小柄で働き者の彼女は使用人たちに好かれており、メルデルも一生懸命働く彼女に好印象を抱いていた。


「メルデル様、おはようございます」


 朝から小さい体でちょこまか働く彼女をほほえましく見守っていると後ろから声をかけられた。振り向かなくてそれが幼馴染のジャミンであるのがわかる。

 とたん昨夜のサラサンの言葉を思い出した。


 ーー私のことが好き?異性として?それはないぞ


 昨日はうなづいてしまったが、ジャミンからそのような態度を示されたことがないので、メルデルは彼の気のせいではないかと思ってしまう。


「メルデル様?どうかしましたか?」


 言葉には動揺のかけらも見当たらない。けれども若干頬を染めてジャミンが問いかけてきた。

 随分長く彼を見つめていたらしいということに気が付いて、メルデルは慌てて目を逸らした。


「なんでもない。今日は視察ではなく、母に付き合う予定だ。明日から工場こうばや畑を見て回りたい。準備は大丈夫か?」

「問題なく……、ベッヘンが整えています」


 昔から表情を隠すのがうまい彼はすぐに表情を改め答える。

 それでは長く見つめたことを謝るほうがおかしいと思い、メルデルは話を続けようとした。


「メルデル。なんで起こしてくれなかったの?」


 前方から少し慌てて様子のサラサンが現れて、ジャミンは道を譲るように脇に寄る。


「あら、お邪魔だったかしら?」

「お戯れを。殿下、朝食の準備を整えます。メルデル様、ベッヘンを呼んでまいりますので明日のことは彼に聞かれたらよろしいでしょう」

「そうだな。邪魔をして悪かった」

「とんでもありません。メルデル様」


 ジャミンは一切の動揺を見せず、二人に深々と頭を下げると颯爽と部屋からいなくなってしまった。


「うーん、身分を弁えているってことなのかしら。それならすっぱりあきらめればいいのに」

「殿下?」

「メルデル。起きたら私も起こして。いつも言ってるでしょう?目覚めたらあなたがいないと不安になるのよ」

「すみません」

「謝らなくていいから。なんだか叱ってるみたいになっちゃったわね。ごめんなさいね。あなたがジャミンと話しているところを見ると気持ちがざわざわするのよ。嫉妬しちゃってごめんなさいね」

「嫉妬?!」

「だって、あなたジャミンには自然に話すじゃないの。私にもそうしてほしいわ」

「……でもそれは不敬で、」

「不敬だなんて、夫婦なんだから当然でしょう?」


 いつの間にか、サラサンがすぐそばまで歩いてきていて、彼女を覗き込むように腰をかがめていた。青い瞳には不安そうな自身の顔が映っていて、なんだかいたたまれない気持ちになった。


 ーーサラサン殿下の前なのに、こんな顔を見せて


「申し訳ありません。殿下」


 何と答えていいかわからず再び謝ると、サラサンは痛みに耐えるように目を細める。


 ーー謝るべきじゃなかった?だけど、どうしたら


「サラサン殿下、メルデル妃殿下。朝食の準備が整いました」


 戸惑う彼女に救いの声がかけられた。

 それはケリーで、ちょこんと二人の前に立ち、きれいなお辞儀をしている。


「ありがとう。ケリー」


 先に答えたのはサラサンだった。


 --殿下はケリーの名を知っている?昨日確か、彼女は玄関に姿を見せていなかった。だから紹介はまだしていないはずなのに。


「メルデル。どうしたの?行きましょう」


 彼はメルデルの戸惑いに気づかず、動こうとしない彼女に声をかける。


「はい」


 ーーきっと、どこかで自己紹介でもしたのかもしれない。私が彼の周りに四六時中いるわけでもない。


 何か釈然としない気がしたが、そう割り切ってサラサンの後を追った。



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