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買い物の後のモヤモヤ

「なんだ、そのしけた顔は」

「煩いわ。兄上」


 サラサンは楽しく買い物をする予定だったのだが、着替えたあたりからメルデルの態度が再び頑なになってしまった。

 街から戻ってもギクシャクしたままで、前日のウキウキした気分はなくなっていた。


「焦りは禁物だぞ。ともかく悪いのはお前だからな。期待はするな。許しを乞え」

「謝罪は何度もしたわ。だけど」

「まあ、彼女は18年も男装して、そのうち3年は伯爵として領地を治めていたんだ。それを壊されて怒るのは無理ない。そう簡単に機嫌が直るわけがないさ」

「わかってるわ。でも一生許してくれないかもしれない。もしかしたら嫌われているかもしれないわ」

「それはないな。安心しろ」

「なんでそんな断言できるの?」

「勘だ」

「何よそれ。本当、兄上の脳筋ぶりには困ったものだわ」

「だが、考えてもしかたないだろう。お前ができるのは謝罪そして誠実な態度だな。彼女の領地で彼女が築き上げてきたものを見てこい。そうしたら彼女の痛みがわかるだろう」

「……もう十分わかってるわよ」

「わかってないな」


 口を尖らせて答えたが、兄ザッハルは大きな溜息を吐く。


「まあ、ゆっくりと時間をかけろ。どうせ彼女は逃げることはできないのだから。お前のせいで」


 応援しているのか、責めているのかわからない言葉を投げかけられ、サラサンは余計凹んでしまった。



「まあ、ありがとう」


 第一王子妃ラリアは顔を綻ばせた。

 買い物をしていたら、ふとサラサンがこのお菓子はラリアが好きなものだとつぶやいたので、なんとなくこの間のお茶会のお礼にとメルデルは買ってしまった。生もので、侍女に任せて渡すのも無粋な感じがして、自身でラリアに会いに来ていたのだ。

 

 ――別に彼女の様子を探るつもりとか、そういうつもりはないのだからな。


 サラサンがそんな風にラリアの好みまで知っているということは、もしかしてまだ未練があるのではないかと考えてしまった。しかも、着替えをしたあの店の赤毛の女性と同様、ラリアの胸も大きい。

 男性は胸が大きい女性を好む。夜会にでると下世話な話をする貴族もいて、メルデルも適当に相槌を打ちながら聞くことがあった。

 

 ――殿下は男性が好きだと聞いていたが、実際に見たわけではないからな。もしかして本当は女性好きかもしれない。


 女性的な話し方、可愛らしいもの、綺麗なものが好きなこと以外は男性と変わりないと、メルデルは彼のことを思っていた。


 ――だけど、その場合、なぜ、私を?わざわざ私が女性であることを公にして、婚姻を拒否できないように追い込むなんて。殿下のことはやはりわからない。私のことが本当に好きであれば、正直に言ってくれて、5年待ってくれたら……。


 5年後、弟が15歳になったらメルデルは当主の座を譲るつもりだった。自身は領内で女性として暮らすわけにはいかないので、領地を出て旅に出ようと考えていた。

 

 ――それでも、だめか。5年後に殿下と結婚しようとしても、自身が性別を欺いていたことは公になる。むしろ、今より状況は悪くなるかもしれない。


「メルデル?」

「も、申し訳ありません」


 わざわざ面談を申し出たのに、お土産のケーキを渡した後、考えことに没頭しており、メルデルはラリアの話を全く聞いてなかった。


「まあ、色々あったのでしょうね。ケーキを買ってくださってありがとう。これは私の大好物なのよ」

「存じ上げております。サラサン殿下がそうおっしゃってましたから」

「それで……。あれ?もしかして勘違いしている?」

「そ、そんなことはありません」

「ふふふ。嘘ね。サラサン殿下と私はなんでもないわ。本当よ。サラサン殿下はあなた一筋なんだから」

「一筋……」


 断言されたが、メルデルは腑に落ちなかった。

 優しいし、好意を持たれているのはわかっている。それは伯爵だった頃から同じだ。


「わかってないみたいね。本当。気持ちは伝えないとわからないのにね。メルデル。領地に戻るんでしょう。ゆっくりしてらっしゃいね。そしてまた一緒にお茶をしましょう」

「はい」


 疲れているだろうからと、面談はそれで打ち切られ、メルデルはサラサンの部屋に戻る。


 ーーそういえば、ラリア様は個人の部屋がある。私も殿下と同室ではなくて、別に部屋を持たせてもらえないだろうか。そう言うのは我儘にあたるのかな?


 サラサンに相談する前に古参の侍女に確認する。すると現国王が王子であった頃、王子の妃たちが個人の部屋を持たされていたことを知り、メルデルは彼に頼んでみることにした。


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