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ニコの謀略

**********



 レンロック王国の王宮。

兄であるダグに取って代わり、今や第一王子となったニコ・レオヴォルドが王宮の自室にて緑のガウンを着込みゆったりとくつろいでいた。その横に鷲鼻が特徴的な男が手を緊張のためかこすりあわせながら立つ。



「あまり良い報告じゃないようですねぇ、ウィックさぁん?」



 ねっとりとした口調でニコは鷲鼻の男--ウィックへと話しかける。

そして革張りのイスから立ち上がると、グラスを2つと茶色の酒の入った瓶を棚から取りだすと、ウィックの横のテーブルへとグラスを並べる。木製のテーブルにグラスが2つ、それらに酒を注ぐと、ニコは右手に持ったグラスを押しつけ、左手に持ったグラスを自分の口元へと持って行く。恐る恐るグラスを受け取るウィック。そしてニコと同じようにグラスの酒を口へと運ぶ。つんとした刺激が喉を通り、胃の中が熱を持った感覚がウィックは感じていた。



「さあさあ、そんな緊張しないでくださいよぉ? ほら、もう一杯如何ですかぁ?」



「え、ええ。い、いただきます……」



 ニコは酒瓶を手に持つと、ウィックのグラスへと注いでいく。

茶色の液体がグラスの縁ギリギリまで注がれていく。『おっとと……』、ウィックは零れそうになった酒を口に運ぼうとするがニコはそれを制止する。



「酔っていては正確な報告は出来ないでしょう? ほら、飲む前に正確に報告してくださいよぉ?」



「え、あ。は、はい」



 ニコの側近であるウィックは内心恐れていた。ニコは失敗は許さない性格の持ち主で、些細なことで部下を残酷な方法で処断してきたのを何度も見てきたのだ。戦場でいくら情報が貴重であるとはいえ、敵国の捕虜を自身の手で笑いながら拷問していたのだ。そしてダグの手に掛かった捕虜は情報を吐こうが吐くまいが、指先は全て引き抜かれ片目は抉り取られ、鼻まで削がれて人相が判別出来ないほどの骸と化すのであった。

『そんな性格の相手に失敗の報告をしたならば、どうなるか分からない』そう考えていたが、予想外のニコの反応に胸をなで下ろす。



「ダグのハーピアと呼ばれている魔モノの拉致に失敗しました。現在は極力離れてダグたちの監視、及び新たに人を雇って再度拉致をする方向で動いています」



「そうですかぁ。それは”困りました”ねぇ?」



「えぇと……? 困った、というのは、あの、ダグのことでしょうか?」



「ああ、”アナタの立場が困ったことになる”、と私は言ってるんですよぉ? アナタ、馬鹿なんですかぁ?」



「へ……。え?」



 ニコは笑みを崩さずにじっとウィックを見やる。

口元には笑いじわが浮かぶが、ニコの目は笑ってなど居なかった。ニコの目は瞳孔が目一杯広がり、黒目が白目を覆い尽くしていた。そのニコの様子にやっと自身の置かれた状況を理解したウィックはガタガタと身を震わせる。手に持ったグラスから酒が零れて、真っ赤なカーペットにシミを作る。



「大方、あのダグと正面からやり合ったのでしょう? 私は強く言いましたよねぇ、”あれ”が留守にして居ないうちに、まだ私が動かないと読んでいる隙を狙え、と。どうしてこんな簡単なことが出来ないんですかぁ、アナタは?」



「わ、わ、私は、つ、強くそのことを言ったつもりでした! ぶ、雇った奴らがその、そのことを理解してなかったようでして」



「……せっかくのお酒が零れてますよぉ? ほら、飲んでください?」



 ウィックは言われるがままに震えながらグラスを口に持って行く。

そしてグラスが唇に触れる瞬間、ニコの手がグラスとウイックの首筋へと伸びる。そしてウイックの頭を固定してグラスを思い切り口元へと押しやる。ウィックは口の中につんとしたアルコール臭と鉄サビの味が広がっていく。



「1回奇襲に失敗したら、ダグがあの魔モノから2度と目を離すわけがないでしょう? ほら、いっぱいお酒飲んでくださいよぉ?」



「……ごほっ!?」




 ニコはウイックから手を離すと同時に、ウイックは膝を着いて口から酒と歯の欠片を吐き戻す。

そしてむせながら己を見下ろすニコを見上げる。



「……ふぅ~。”ダグ(アレ)”の恐ろしさぐらい、アナタなら分かっていたんですがねぇ? アレは10年前、15の時の初陣でたった200の兵で南のネクラタル国軍3000人の軍を殲滅したんですよぉ? 砦を包囲されて本来の兵長が逃げ出して、絶望的な状況下で、ですよぉ」



「……あふふか(アルルカ)の戦い」



 ウィックは真っ赤に染まった口を手で押さえながら答える。

ニコはそんなウィックの胸ぐらを優しく掴みながら言葉を繋げる。



「そうですよぉ? その戦いでダグは自ら先頭になって突撃したんですよぉ。まさか、包囲が突破されるとは考えてなかったネクラタルの方たちは統制が取れずに敗走をしたんですよぉ。それをさらに追撃して散々に痛めつけたというのが、兵士たちの教育書にも載っていますよねぇ? ダグ1人だけで300はネクラタルの人間を斬り殺してなお、剣は血塗れ1つしていなかったからあの頃は『白刃の獅子将』とも呼ばれてましたっけ? 本当にアナタが失敗したことが悔やまれますねぇ、あのバケモンが油断した唯一の機会だというのに、ねぇ?」




「……ふ、ふみまへぇん」



 ニコは自身のグラスに酒を注ぐと、一気にそれを煽る。

そして天井を仰ぐと、ため息を吐く。



「同じ策はもう通じないでしょうねぇ? さてどうしましょうか。まずは」



 ニコは頭の中で思い浮かべる。とある薬師から買い付けた、とある薬。少しずつ摂取すれば、心臓がゆっくりと蝕まれて近いうちに死が訪れる薬。既にそれを国王である父の食事へと混ぜている。近い将来、国王が死ねば第一王子であるニコ()が王の座に就ける。今、余り動きを出してこの策に気づかれたくはない。

『ダグの魔モノを人質にすることで怒り狂ったダグをわざと焚きつけて波乱を促し、”英雄”から”反逆者”へと堕とす。同時にダグを慕っている将兵もあぶり出して粛正する計画』は一旦止めざるをおえなかった。



「さて、次はちゃんと指示通りに動いてくださいねぇ?」



 そういうとニコは笑いながら次の策について考えを巡らすのであった。



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