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信仰と狂気-2

「これで、良しと」



 ダグはナイフで矢尻を摘出し、薬を塗りつけて包帯を巻き付ける。

ルゥは腕を、ハーピアは翼に真っ白で清潔さが際だった包帯をぐるぐると手際よく巻かれていた。麻痺毒もかなり引いてきたのか、喋る声もろれつがほとんで回っていなかったときに比べてはっきりと話せるようになる。



「……さて」



 ダグは考えていた。

ダグにとっての理想は『相互共栄』であり『支配』ではない。だが、ハーピアに向かって蜥蜴(リザード)族たちはハーピアに向かってすがるような視線で見つめ続けていた。ある意味ダグの目標である『魔モノ物園』について1歩進んだ形とはなったが、このような歪んだ形での協力は求めていなかったのだ。だが、考えようによっては降って湧いたような”幸運”。それを手放すことなどあまり考えたくはなかった。



「それで先ほどの俺の提案なんだが、聞いてくれるのか?」



「ええ、ええ。エグゼル様のお導きなら、例え業火の中でも笑って飛び込みましょうぞ」



 蜥蜴(リザード)族の大長ガルロンは裂けた歯をむき出しにしながら”笑顔”を作る。先ほどまでダグの要求をつっぱねた知性ある目の輝きは薄らいでいた。

それを見てダグは再度薄気味悪さを感じるが、それらを一切表情を出すことはない。愛娘のハーピアをを彼らの信仰対象である『エグゼル様』と同一視しているのだ。もし、ここで逆に強くそれを否定したならば、彼らの信仰を否定したと取られかれない。



「そう、か。なら2つほど頼まれて欲しい。1つは何人か俺の指定した場所で住み込みで働いて欲しいんだ」



「エグゼル様の御許で働かせて頂けるなら、何でも致します。それで、もうひとつは?」



「もうひとつは『魔モノ物園』の施設作りを頼みたい。俺が設計して、指示を出すから」



「ええ、ええ。承知致しました。それで儂らに住み込みで何の奉仕をしろと?」



「奉仕じゃない。”仕事”だ。それについても色々後で話すから。取りあえず、1度設計図を取りに家に戻る。ハーピア、ルゥ君、立てるか?」



「う、うん……」



「はっ、はい」



 その言葉にガルロンは怪訝な表情となる。

そして皺の寄った顔にさらに皺を寄せながら、手に持った杖を振りかざす。



「……エグゼル様は儂らと一緒に居られなんだ? 儂らをここで見守ってくだされなんだか?」



 その声に他の蜥蜴(リザード)族たちも立ち上がり、じりじりとにじり寄ってくる。にじり寄ってくるだけではない。床に置いた槍を手に持ち、次の瞬間には飛びかかってきそうな雰囲気である。

『ハーピアをずっとこの洞窟に閉じ込めて信仰したいのだろう。だが、絶対にそれだけは避けなければ』。ダグは返答に窮してしまう、否定をすれば彼らの信仰対象を偽ったことになり良くて八つ裂き、かといってこのまま行けば愛娘がこの洞窟内で死ぬまで生活することになる。ダグは言葉に詰まり、なんとかしてこの場を切り抜けようとするがなにも思いつかない。その時、ダグが背で庇っていたハーピアがスッとダグの前へと立つ。




「皆様、私たちを助けて頂きまして大変感謝しております。ですが、私たちはずっとここには留まれないのです」




「なんですと……?」




「私たちは行かなければならないのです。『()ありて非なき仔らを、迷いありて罪なき仔らを。その仔らを救済しに万の道を征かねばならない』のです。この『黒き翼が抜け落ちる前に』」



(……ハーピア。何を言っているんだっ!?)



 ダグはハーピアが突如言い出したことに焦りと混乱する。下手を打てば殺されてしまう、その状況。

そんなことはハーピアでも分かること。しかも、ダグは聞いたことも教えたこともない何かの一説らしき言葉をハーピアは口にしたのだ。焦るダグ、冷静なハーピア、そしてピタリと動きを止めた蜥蜴(リザード)族たち。ざわめきは収まり、ガルロンは透き通った声でハーピアへと口を開く。




「……エグゼル様はこう言いたいのですかな? 儂ら以外の『種族たち』も救済されに征かねばならない、と。ふむ」



 ガルロンは無言で顎を動かして同族たちに指示を出す。

先ほどまで今にも飛びかかりそうな雰囲気だった蜥蜴(リザード)族もまた落ち着きを取り戻して、道を開ける。ダグは目を丸くしながらもガルロンの気が変らないうちにとその場を後にするのだった。





**********



 蜥蜴(リザード)族たちの住処から離れた帰路にて、ハーピアとルゥを乗せて愛馬のシャバックの手綱を握るダグは、辺りに蜥蜴(リザード)族が居ないことを確認するとハーピアへと話しかける。



「なぁ、ハーピア。さっきの『皮なき』なんとかって、あれはなんだ?」



「……御免なさい、私にも分かりません。気がついたら口に出ていました」



「そう、か」



 ダグはそれ以上の質問はせずに黙る。

蜥蜴(リザード)族たちからの強力な協力を結べた一方で、ハーピアが彼らの信仰対象に酷似していたこと、そして知らないはずのその信仰対象の一説を諳んじられたことの謎が残っていた。さらにダグの想像を超えて刺客が放たれていたこともダグの頭を悩ます要因であった。

そしてダグは確かめるように愛娘のハーピアの頭を優しく撫でると、帰路をひた走るのであった。



 

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