信仰と狂気-1
ダグはもの言わぬ死骸となったフード男を足蹴にすると、固まったまま驚きの表情のルゥへと歩み寄る。
そして腕に不覚刺さった矢を診ながら、ルゥの怪我もまた命に関わるようなことがないことに安心する。
「君は確かバラルさんのところの。君が娘を護っててくれたのか」
「う、ん」
麻痺毒のせいでろれつが回らなくとも、しっかりとルゥはそのことを伝える。
ダグはゆっくりと頷くと、肩をルゥへと回しながらハーピアと一緒に傷を診るために横に寝かせようとしたときに、いつの間にかハーピアの横に人影が現れていたことに気がつく。その人影は乾燥し皺の寄ったオレンジの肌が特徴的な蜥蜴族の大長ガルロンであった。じっとガルロンはハーピアを見下ろしていたが、突然ガルロンはハーピアの前で頭を垂れて地面に膝を着く。
「お、父、さ……!」
ハーピアは目で父へと助けを求める。ダグは最初、死体に突き刺さっていた剣を引き抜くと、愛娘に手を出そうとしたガルロンを警戒したがその様子に怪訝な表情になる。
まるで祈りを捧げるようなその姿勢に違和感を覚える。
「え、な、なんだ?」
「エグゼル様が、エグゼル様が、降臨なされた……。」
ふるふると肩を震わせて、ガルロンは感動のあまりその目から大粒の涙が零れ始める。
そのガルロンの後ろの茂みにはいつの間に現れたのであろう、蜥蜴族たちも地面に平伏してハーピアへと祈りを捧げていた。その様子に『狂気』を感じてダグは背中に薄ら寒いものを感じる。
「先ほどはエグゼル様の眷属の方とは露も分からず、大変ご無礼なマネを致しました」
「……あ、ああ。とりあえず、俺が持っていた荷物、ナイフとかを返して貰っても良いかな? あの2人を治療するのに使うんだ」
「ええ、ええ。すぐにお持ち致します。ささ、こんなところに居ないで、早く安全な所へ」
そう言うと蜥蜴族たちはダグやハーピア、ルゥを背中に抱える。
ダグは咄嗟に抵抗しようとしたが、高い場所から落下した衝撃で身体の節々が悲鳴を上げており振り払うことが出来ない。そしてダグたち3人は、いつの間にか先ほどまでガルロンと会談をしていた部屋で豪勢な供物に囲まれており、さらにその供物以上の数の蜥蜴族たちが3人の前で膝を着いて頭を垂れていたのであった。




