愛娘のために父は崖から飛び降りる
ルゥが床下から雑草生い茂る外へと走り出す。
そのことに気がついたであろう追っ手がルゥに向かって駆けてくる。そして家の中を探索していた追ってもまた、仲間の声に反応して外へと飛び出してくる。
(へへっ、俺に着いてこい)
ハーピアは近くから追っ手が消えたのを雰囲気で察する。思い切り息を吸い込むと痺れる指先を口に運び、咥える。
『ピィィィイーッ!!!』
通るような口笛が辺りに響く。
その口笛に反応したのは愛馬のシャバック、そして追っ手の者たち。愛馬がハーピアの元へと来るのと同じくらいのタイミングで床下から這い出ていたハーピアを追ってが視認する。
「うっ……」
追っ手は弓を引き絞り、ハーピアの翼を再度狙う。飛ばれて逃げられないがために、痺れ毒をたっぷりと塗った矢。
ハーピアに矢が射かけられそうになった瞬間、同時にルゥがその射手へと突進する。
「がぁっ!?」
矢はあらぬ方へ飛んでいき、追っ手は地面へと転がる。
その隙にルゥはハーピアの元へ来ていたシャバックの背に乗ると、ハーピアを片手で引き上げながら馬を走らせる。地面に倒れていた追っ手は体勢を整えると、再度弓を引き絞って今度は馬の方を狙う。
「っ!」
馬のシャバックに射かけられた矢、それに気がついたルゥはハーピアを掴んだ腕を動かしてシャバックに向かってくる矢を自分の腕で受ける。
痛みでハーピアから手が離れそうになるが、気合いで耐える。そしてシャバックに逃げるを任せて追っ手たちから逃げ出すことに成功する。だが追っ手たちもまた馬に乗り、遅れながらもハーピアを追いかける。麻痺毒で痺れ行く身体に鞭を打ちながら、なんとかして手綱を持って駆けるのであった。
*******
それから少しして、ルゥとハーピアはシャバックの背に乗っていつの間にか森の中を駆けていた。
ルゥにはもはやここがどこか分からなかったが、分からなかったことで分かったことがあった。普段、狩りを生業としているルゥの一家、当然猟場の場所など自分の庭のように分かっていた。それが分からない、ということはそこが祖父にきつく近寄るなと言われていた蜥蜴の住処、そこしか考えられなかった。
(どうしよう、どうしよう)
ルゥはなんとかシャバックの手綱を取ってここから離れようとするが、手が痺れて上手く動かすことが出来ない。シャバックの気の向くまましか逃走経路はない。だが背後から確実に追っ手たちの蹄の音が近づいて来ていた。
ちらりと後ろを見ようとした瞬間、ルゥの背に矢が飛んでくる。痛みで手綱から手が離れてハーピアごとルゥは落馬する。落馬した衝撃で額が切れて、身体中が痛みで悲鳴を上げる。
「うぅ……」
ルゥとハーピアは痛みでうめき声を上げる。その2人を見下ろすようにした追っ手の男たちはハーピアだけを乱暴に引き上げると、ハーピアを掴んだまま近くの木の下に馬を寄せて下りる。
そして顎で残りの追っ手たちに指示を出す。指示を受けた男たちは無言で頷くと腰から細身の剣を引き抜いてルゥへと向ける。ルゥは自らに近づいて来る男たちを目だけで追うだけしか抵抗する術がなかった。一歩、また一歩。剣を持った男たちが近づいて来る。そして剣を振りかぶり、ルゥに向かって振り下ろされるその瞬間。
「おおおぉおおおおっ!!!」
人間が、ダグが大きな叫び声を上げながら降ってきたのだった。




