大長との会談-3
「断る」
低くしわがれた声で蜥蜴族の大長ガルロンの否定の言葉が響く。ダグはその返答に少しだけ眉をひそめる。
「なぜ?」
「誇りを捨てて見世物になれと? それに”保証”がない。アンタの話にも、未来にも、過去にも。アンタを信じて一族で着いていくための証拠。それがない。それに儂らはこれまでもうまくやってきた。これからも、だ」
「……っ。いや、最後まで話を」
「何故、そんなことに儂らが乗らなきゃならないのか理解に苦しむがね」
甘かった。甘すぎた。
ダグは心の何処かで魔モノのことを見くびっていたとわからせられる。同時に自分自身がまだ王家の血を拠り所にしていたことも痛感させられる。
「今提示できる”証拠”なんてものはない。ああ、確かに。だが、俺の言う未来近い将来必ずやってくるはずだ。確証がなければ動くことは出来ないのか?」
「一族を束ねるものとして軽々にことを進めるワケにゃいかんからな。そんなことすらわからんのか、若造?」
一触即発の空気が流れ始める。
説得、交渉、脅し、なだめすかし、媚びる。いずれの策が有効か考えるがダグには思い浮かばない。”交渉”で活路は見いだせる、その希望がどんどん目減りしていくのをダグは感じ取っていた。
「……今の状況を打開できる方法が目の前にあるのに、何故乗らないんだっ!?」
「ほら、お客さんがお帰りだそうだ。出口まで案内してやれ。ああ、そうそう。外で儂らと話したなどと広めるでないぞ? 口にしたが最後、絶命する呪いを掛けておいたからな」
「っ! 話はまだ終わってない!」
立ち上がったダグ。だがそれに合わせるようにして横に居た
蜥蜴族たちが立ち上がってダグへとにじり寄る。ダグにとって想定以上の最悪な事態であった。もはや蜥蜴族に接触したこと自体、間違いであるであった。
「息をしてここから出るか、あるいは冷たくなってここをでるか。さてどちらが良い?」
もはや、交渉などという余地はない。
そしてダグの『魔モノ物園』という構想は脆くも崩れ去っていく。交渉の材料もなければ、”策”などもない。
(何か、交渉に使えそうなことはないのか)
ダグは蜥蜴族を観察し、機微を読むことをしなかったことを悔いていた。
蜥蜴族の子供を救ったまでは良い。だが、そこまでにして一旦引くべきだったのだ。出来るだけ時間を稼いで打開策を探るが、ない。そのとき。
バンッ!
勢いよく部屋の扉が開かれて1匹の若い蜥蜴が大長の元へと駆けてくる。手にはないやら水晶玉を持ち、大長に顔を寄せてなにやら話しかける。途端に大長の表情が驚愕じみたものになり、水晶玉を食い入るようにして見始める。一方でダグもまた、水晶玉を食い入るように見る。
(なぜ、ハーピアが映ってるんだ!?)
抱えるほど大きな水晶玉には愛馬に乗ったハーピアと少年の姿が映し出されていたのであった。




