大長との会談-1
何時間経った頃であろうか。
腕を枕にして仰向けで寝ていたダグは、金属同士がぶつかり合う音で目を覚ました。その音の先を見てみると、2人組の槍を持った蜥蜴が、ダグを起こすために何度も音を立て続けていた。ダグが起きたのを確認すると、槍先でダグを脅しながら、檻の外を指し示す。『ここから出ろ』。無言ではあったがダグはそう理解した。
「そんなものを突き立てて脅したって逃げやしないよ。なあ、君はなんて言うんだい?」
「……」
自身の前を歩く方と後ろで常に槍先を突きつける相手に向かってダグは世間話をしようとするが、相手は反応しない。
『ああ、やはり俺と話すつもりはないらしい』。ダグは会話を諦めると、辺りの様子を見るためにできる限り歩速を落とす。
(……ここは”赤岩”付近の洞窟なのか?)
所々松明で照らされた窓など無い暗くゴツゴツとした岩肌の洞窟が延々と続く。
途中でいくつもの横穴があり、遠くには屋台にに似た商店が建ち並ぶ区域もあった。だが、ダグはそれらを横目で見るだけで、立ち止まることもずっと眺めることすら許されなかった。
(ん、あそこはなんだ?)
ダグは目を細めてその場所を見やる。
そこだけ真っ白に塗られた一区画、そこに数体の蜥蜴が跪いていた。その跪いた先には一体の像が置かれており、まるでそれに祈りを捧げているように見えた。ダグはそこで強烈な違和感を覚える。その偶像は一部を除き、ほぼほぼ人の形をしていたのだ。その一部とは背に生えた真っ黒の翼のみ。ダグには蜥蜴たちの信仰対象がほぼほぼ人なことに釈然しない。
(……なんとなくハーピアに似ているな)
その特徴は娘であるハーピアに酷似していたのだ。
”偶然だろう”、ダグはそう自分に言い聞かせるようにするが、不思議と何か予感めいたものを感じる。
そうやってダグが悩みながら歩いてしばらく経った頃、前を歩いていた蜥蜴がピタリと脚を止める。
そこは見たこともない文様が描かれた扉。その扉をダグの案内していた蜥蜴がゆっくりと開けるのであった。




