拉致、拉致、拉致
茂みから現れたのは数匹の全身をオレンジの鱗に覆われた4匹の大人である蜥蜴族であった。
手には鋭く先を尖らせた槍を持ち、ダグを威嚇するように囲む。ダグは敵対の意志がないことを示すためにナイフを腰に仕舞うと両手をひらひらと突き出す。
「おいおい、落ち着いてくれよ。敵対の意志はない。話がしたいだけだ」
ダグはゆっくりと、一言一言区切るように蜥蜴族に話しかける。そんなダグを無視して、袋に詰められていた蜥蜴族の子供を心配するように自分たちの背後へと下がらせる。子供は何かをいいたげそうな雰囲気であったが、それを1匹の蜥蜴族が目で制す。
ダグにとって、ここがある意味で一番の正念場であった。もしここで敵対的行動を受ければ、この極西の地域まで来た意味が無に帰す。そしてそれは『魔モノ物園』の設立がほとんど不可能になるということを指し示すこととなる。
「話が、したいんだ。君たちの長の元へと連れて行って欲しい」
「「……」」
「「「……」」」
蜥蜴族たちはダグの言葉が分かったのか、あるいは分からなかったのか。ダグからは確認することが出来なかった。
だがひそひそと顔を突き合わせて何事かを話し合う素振りを見せていた。その光景を見て、内心ダグは喜びを抑えつけていた。『俺の言葉が通じているらしい』。つまり、会話が通じる相手であるということであった。
(ん……?)
ようやく相談を終えたのか、2匹の蜥蜴族がゆっくりとダグの元に近寄ってくる。
1匹の手には槍が、もう1匹の手には子供蜥蜴族が入れられていた袋を持っていた。そしてダグを脅すように槍を突きつけられる。そして次の瞬間にはダグの頭からすっぽりと袋を被せられ、視界が真っ暗となる。同辞に腰のナイフを鞘ごと奪われてしまう。その袋の上からさらにヒモが何十にも巻かれていき、完全に身動きが出来なくなる。
「落とさないようにしてくれよ? 俺は壊れやすいんだ」
ダグは軽口を叩くが、蜥蜴族たちはなにも話すことはない。
返事の代わりにダグは担がれる。そして蜥蜴族たちは子供を引き連れて自分たちの住処へと戻るのであった。
*******
「うごっ!?」
暫くして、ダグは何処かに乱暴に下ろされる。床に転がったダグの縄が切られて、ようやく自由の身になったダグはもぞもぞと袋から身体を出す。
ようやく袋から顔をだすと、そこは暗く湿り気がある狭い一室であった。洞窟でもくり抜いたのか、部屋の三方はゴツゴツとした濡れた岩壁に正面にはダグが逃げれないようにするように柵が張られていた。ダグは試しに柵に手を掛けてみるがびくともしない。柵から外の様子を見やるが、ダグを解放した1匹の蜥蜴族が廊下の角に消えていくのがみえるだけで、他に蜥蜴族の姿は見受けられなかった。
(……個室を与えてくれるなんて好待遇だな!)
ダグは固いごつごつした床に寝そべると考える。
殺すつもりならばとっくに殺されている。この檻に俺を閉じ込めているってことは”生かす意志”が少なくともあるってことだ。しかも檻を作っているということは頭だってそれなりに良いはずだ。交渉の余地はある、はずだ。
(……ハーピア、1人で大丈夫かな?)
ダグはそんなことを考えながら、天井を見つめていた。
何時間経った頃であろうか、薄暗い檻の中では時間の感覚などない。今まで死んだように静かだったダグの檻に近づいて来る足音がひびくのであった。




