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ここは氷河と丘陵の世界。
遥か高く屏風のようにそびえ立つカーロント山脈の麓に、クルルヤギの放牧を生業とし石造り家に住む遊牧の民 エマンティの村があった。
少年ニックはエマンティの村に住む大家族の末っ子として生まれ育った。
ニックは幼い頃に崖から転落し生命の危機に陥ったこともあり高いところを苦手としていた。しかし、その苦手はいつか克服しなければならないものであった。
なぜなら、エマンティ村の少年は15歳になると『カーロント試験』と呼ばれる試練を受けて、それをクリアしなければ村の大人として受け入れられないのだ。
カーロント試験は受験者が自分で選んだ1匹のクルルヤギと共に、古竜が住むと云われているカーロント山脈でも一番高い山『ロロボン』の山腹に群勢するナスに似た花を咲かせる『ルイルイ草』をとって戻ってくるというものである。
ロロボンに登るためにはいくつも崖を登り、また谷を下らなければならないため、高いところが苦手なニックにとってはとても恐ろしい試練だったのである。
しかもカーロントに住むとされる古竜は夜に山で眠っている人間を見つけるとそれを食べてしまうと伝承されているため、山には朝早く登りはじめ、夜までに必ず帰ってこなければならないのだ。
<中略>
無事にカーロント試験に合格したニックは村へと帰り、エマンティの竜導士となった。<完>