07話 魔人都市
レオンとの戦いを終え、集落へ戻った僕らは2度目の【魂の契約】の準備に取り掛かることにした。
レオンは集落に残っている獣人たちを迎えに戻った。
今日中には戻るとのことだ。
先程の戦いでレオンの魔力を浴びた魔物たちはかなり消耗していたようで、回復薬を配り体調が戻るのを待つことにした。
獣人たちは初め、レオンが負けたことに驚いていたが疑っている様子はなかった。
避難した場所からでも一時的に開放した僕の魔力を感じ取っていたらしい。
「あんな魔力みたことねぇよ……。」
「ソラさん、あんたほんとに何者なんだ?」
そう獣人の者たちが聞いてきた。
ゴブリンやスライムたちもその話に興味があるようでこっちを見てきた。
「僕が何なのかは僕自身が一番知りたいんだけど……
さっきの魔力に関しては説明させてもらうよ。」
皆がこちらへ注目を集める。
まず、僕は5年前にジエンに救われ養子になった。
拾われたとき、僕は体から魔力を噴き出し悶え苦しんでいたらしい。
レベル0でありながら魔力が目覚めてしまった少年。
レベル1に覚醒しなければ死を待つしかない。
そんな状況の僕にジエンは【抗魔の首飾り】というものを渡してくれた。
それを受け取った僕は魔力を抑えることができ、死を免れた。
それ以来僕はジエンのもとでレベル1への覚醒を目指し修行をすることにした。
その修行の中、一時的に魔力を開放する訓練も行った。
結果1分までなら意識を保っていられたが、それ以上行使すると自我を失い暴走が始まってしまう。
そしてそれがしばらく続くと、心が完全に破壊され二度と『ソラ』に戻れなくなってしまう危険性があるらしい。
しかしいつかこの力は必要になる。
今回も使わなければ勝てなかった。
今後も何があるか分からない。
だから僕は覚醒しなければならない。
「これが僕の今の状況だ。
僕が拾われた国が誰に滅ぼされたのかもできれば突き止めたいと思っている。」
「そんなことが……」
魔物たちは僕の話を黙って真剣に聞いてくれた。
ちゃっかりライアンにも話してしまったが、必死に隠すようなことでもない。
獣人の一人が質問してくる。
「覚醒というのは、我らでいう進化のようなものですか?」
「ちょっと違うかな。
魔物は段階に応じて姿が変化して上位種になったりするけど、人間は人間のままだから。」
そういうとライアンが補足するように言ってきた。
「レベルとは別に人間には上位存在がある。
人間の枠を超えた力を身に付けた存在は【聖人】や【仙人】なんて呼ばれる。
魔力の強さとは別枠で、生き物としての本来のスペックが大幅に上昇するらしいぜ。
そっちのほうが進化に近いかもな。」
「ソラ君はさっきの戦いを見るにその域に達している気がしたんだけど……」
「一応まだ人間ですよ。」
【聖人】や【仙人】の話は聞いたことがある。
これも特定の条件を満たしたときに昇格する資格を得る。
【勇者】もその一種でそれぞれ絶大な力を得ることができるらしい。
「魔物の進化は覚醒と昇格が一緒に行われる感じなのかな?」
僕がそう呟くと
「というより我々魔物は体の大半が魔力でできているので、人間のいう覚醒がそもそも必要ない体なのだと思います」
そうミルが説明してくれた。
じゃあなんで人間には魔力が宿っているのだろう?
本来の体では耐えられないのなら、生物的に欠陥じゃないのか?
そんな考えに至ってしまう。
そんな話をしているとレオンがこちらへ帰ってきた。
約800人の獣人を引連れて。
「これで俺の仲間は全部だ。
あとは契約を済ませるだけだな。」
獣人たちは様々な特徴の者がいた。
クマやゴリラのような武闘派獣人のほか、猫や犬、兎のような小動物系の者とバラエティー豊かだ。
さて、さっさと済ませるとしよう!
以前の十倍近い規模の契約だ。
手順は簡単だが手違いのないよう注意を払った。
ライアン達は【魂の契約】に立ち会ったことがないらしく興味津々と言った様子だ。
「それじゃ、始めよう!」
僕の合図をもって契約は開始された。
魔物たちが光始める。
夜の森を照らしまるで昼間みたいだ。
それに今回は僕自身の体も光で包まれた。
前回は胸に小さな光が灯った程度だったが、それとは明らかに違っていた。
すると頭の中に声が響いた。
『条件の達成を確認しました。
条件:肉体と魂が一定の強さまで達する。
これより【聖人】への昇格を開始します。』
聖人!?
昇格は正直嬉しいが1つ言いたい。
一定の強さってなんだよ!?
曖昧過ぎてツッコんでしまった。
多分契約で発生したってことは契約によって魂が強化されたってことなんだろう。
その声が途切れるのと同時に変化が起こる。
『取得済みアビリティの効果が大幅に強化されました。
それに加えアビリティ【聖人】を取得しました。』
【聖人】
人間の枠を外れ身体機能が大幅に上昇。
更に聖なる力を身に宿し他の者による魔力の干渉を無効化する。
魔力の干渉を無効化ということは洗脳や記憶操作を受け付けなくなったわけだな。
かなり心強い。
魔力を普段出せない僕はそのあたりの防御力が極端に低かったからな。
それに加え更なる身体能力強化。
3つも重複しちゃってるけど大丈夫なのだろうか?
少しして光は引いていき、僕の変化は終了した。
そして獣人たちの進化も終了していた。
「これはまた、随分人間っぽくなったな……」
僕は獣人たちを見てつぶやく。
獣人たちは『人』というよりは『獣』に近い見た目をしていたが、進化を経て見た目は人間と区別がつかないようになっていた。
1人1人が放つ魔力はかなり大きくなっているようだ。
そして、そんな中でもひと際強い魔力を放つ奴が一人。
「ほうこれは凄い!
素のままでも獅子の覇気並みの力になったぞ!」
黄金の肩まで伸びた髪をなびかせた超絶イケメンがそこに立っていた。
身長は190cmくらいで体格の良い青年だ。
そう、レオンである。
「やっぱお前も進化したのか……」
「おおソラ!
どうやら【獣王】から【獣帝王】に進化したみたいだぞ!」
聞くからにヤバそうな名前だ。
てか実際にヤバい、魔力が完全に化物だ。
現にその姿を見たライアンたちがとんでもない量の汗をかいている。
他の獣人たちも【獣賢者】という種族へ進化し知能レベルが一気に向上した。
武闘派獣人は【獣王】へと進化し、進化前のレオンには及ばないが、戦闘力が増したみたいだ。
これで終わりかと思っていたが、まだは変化があった。
「あれ? ゴブリンとスライムもちょっと変わってる?」
光に包まれていて気づかなかったが、ゴブリンたちにも変化があったみたいだ。
ゴブリン達の魔力量が明らかに増えていた。
それは武闘派獣人たちと同じくらいに。
それはスライムたちも同様だ。
そしてミルは
「なんかスーパースライムからハイパースライムに進化したみたいです!」
なんかこいつだけまた進化していた。
レオンと同じくらいの魔力を放つスライムが一匹ちょこんと座っている。
体表は紫から白くなり、わずかに光を放っている。
「今回は私たちと契約していないのになぜでしょう?」
ミルが不思議そうにしている。
思い当たるのは一つ。
「さっきの契約で僕【聖人】になったみたいなんだ。
それが影響してるんだと思う。」
「おお! 聖人になられたのですか! おめでとうございます!」
「んじゃ、また強くなったのかソラ?」
「まあ、多分?」
実際はっきり分からない。
今度確かめないとな。
さて、
「大丈夫ですかライアンさん?」
「大丈夫なわけねぇだろ!!なんだこれ!!」
怒鳴られた。
「危険度Bクラスがうようよいる空間が大丈夫なわけねぇだろ!!」
「レオンさんとミルさんは多分あれ・・・いや言わないでおくわ・・・」
「あんたもちゃっかり聖人になってんじゃねぇよ!」
冒険者トリオは錯乱状態だったが1時間くらいして疲れ切ったのかようやく静かになった。
そして今日は皆疲れたので、前回とは違い進化後すぐに就寝した。
翌日。
僕とレオンとミル、その他ライアンたちも含めた十数人は、広間に集まりこれからのことを話し合うことにした。
レオンと僕の集落が統合したことにより、集落って規模じゃなくるという話が出たので、一つの町として名前を付けることになった。
「魔物と人間の町だから、魔人都市として名前はどうしよう?」
「いっそ名前を入れたらどうだソラ?」
「色々ややこしくなりそうだから却下で。」
「じゃあ3人の名前を合わせてソレールなんてどう?」
「良いではないかミルよ!俺も賛成だ!」
皆もその名前を気に入り『魔人都市ソレール』という名前に決定した。
しかし同じ元長なのに名前が入らなかったゾブ……ごめんね……。
こうして『魔人都市ソレール』が誕生した。
後は冥界の森に住む他の魔物たちも仲間にし、森全体を巨大な都市へと作り替える計画を進めていくことになった。
まずはレオンの集落とここを繋げることから始め、その道中も徐々に開拓していく。
レオンの集落まではここから約200km、かなりの距離になるがぼちぼちやっていこう。
ここの魔物たちが平和に過ごせる街を作る。
まずはそこから始めよう。
そして徐々に力をつけていけば世界征服の夢に一歩近づく。
途方もない時間がかかりそうだが少しだけ夢に近づいた、そんな気がした。
僕は胸に希望を抱き都市開発に取り掛かるのであった。
読んでいただきありがとうございます。
今回で第一章は終了となります。
宜しければ引き続き読んで頂けると嬉しいです。