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無能力者が世界征服を試みるようです   作者: PPP
1章 冥界の森編
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05話 獣王襲来

 ソラが魔物の長になってから10日が経った。


 集落だった場所は町と呼んでもよい規模にまで発展した。

 家も全員に与えられ水道も通した。


 しかしここにきて一つ課題が見つかった。


「やっぱりシンプルすぎてつまんないよなぁ」


 どの家もほぼ同じような形で個性がない。

 住めれば良い!の精神で作った結果である。

 建築家でもいればもっと凝ったものが作れそうなんだけど……。


 そんな風に悩んでいると討伐隊のゾブから念話が飛んできた。


『ソラ様、今よろしいですか?』


『どうしたソブ?』


『人間を発見しました。

 冒険者と思われるものが3人います。

 どうしましょう?』


『人間!?』



 予想外の報告だ。

 赤髪の男と黒髪の男、金髪の女らしく、かなり強そうとのことだ。


 まだ接触はしていないようだが、発見されて危害を与えてこない保証はないしなぁ。

 どうしよう。


『あ、ビッグボーアの群れと接触したみたいです!

 あの様子じゃ少し厳しそうです!』


 同じ人間が死ぬのは嫌だな。


『加勢してやってくれ!

 いけそうか!?』


『問題ありません!

 直ちに実行します!』


 そういって念話は途切れた。


 少しして再び連絡が入った。


『ソラ様、ビッグボーアの処理完了いたしました。』


『そうか!冒険者たちは?』


『全員無事です。

 軽傷を負っているようですが。』


『そうか、良かった。』


 無事を確認でき一安心だ。

 事情も聞きたいしここへ案内してもらおう。


『ゾブ、集落のほうへ案内してくれ。』


『了解しました!』




 約一時間後ゾブたちが冒険者を連れて帰ってきた。

 案内された冒険者たちが、僕の家……というよりは屋敷へやってきた。

 さて、話の通じる人たちだったらいいなぁ……。


「この方が、我々の主、ソラ様です。」


「こんにちは、ソラです。

 魔物の長をやってるけど一応人間です。

 今日はあなたたちと少しお話しできたらいいなと思ってきてもらいました。」


 冒険者たちへ挨拶をする。

 しかし


「なんだこのガキンチョは、冗談きついぜ。

 お前らみたいなクソ強い魔物の主とは思えないな」


「こんな魔力のかけらも感じない子供がお前らの主だって? 笑えるな。」


 赤髪と黒髪の男はどうにも信じてくれていないみたいだ。

 まぁ、しょうがないよね。

 こういう反応には慣れてるから今更なんとも思わない。


 だが今の言葉に激怒した者がいた。


「おいゴミども、ソラ様をそれ以上侮辱してみろ。

 ぐちゃぐちゃに分解して調合の素材になってもらうぞ。」


 ミルさんが怒ってらっしゃる。

 しかも魔力駄々洩れの本気モード、マジで調合素材にしかねないなこの子。


「落ち着いて、ミル。

 冗談でもそんなことは言わないように!」


「冗談じゃありません。」


「余計だめだよ。」



 ミルの魔力に当てられた冒険者達は硬直し動けなくなっていた。

 それほど実力に差があるのだろう。


 正直、ミルには僕でも勝つのは難しいかもしれない。

 底知れない力を感じさせる奴だ。


「うちの者が失礼しました。

 僕らに敵意はありません。

 ただ、ここに来た理由を知りたかっただけなんです。」


 3人とも固まっていたが、こちらが謝ると緊張が解けたようで金髪の女性が答えてくれた。


「先ほどは失礼しました。

 私の名前はシルユ、赤髪の奴がライアン、黒髪がアッシュと言います。

 ガーディア共和国よりこの森の調査へやってきました。」


「調査?」


「近年俺たちの国は魔獣の被害が増加していてな。

 原因はこの森の魔獣の凶暴化が原因だったんだが」


「ここ1週間ほど、魔獣による被害がぴたりと止んだんです。

 その原因を調査するためにやってきたわけです。」


「魔獣ってビッグボーアとかそのあたりですか?」


「ああ、そうだ。

 かなり手ごわくてな、さっきも助けが来なけりゃ危なかったぜ。」


 赤髪のライアンがそう言って思い出した。


「そういえばケガしてるんでしたっけ?」


「ん? ああ大したことねえよ。

 打撲と骨にヒビが入ってるくらいだ、問題ねぇ。」


 しかし放っておけない。

 僕はミルに頼んで上回復を3つ用意してもらった。


「よかったら使ってください。

 すぐに効果が表れるはずです。」


「……信用してもいいのか?」


 毒の可能性を疑ったのか素直に使用しない。

 まあ無理もないだろう。


 毒見代わりに僕は自分の腕を


 べきっ!!!


 へし折った。


「!?」


「何してるんだよあんた!!」


「__これくらいしたら……信じてくれるかな……?」



 折れた腕に上回復薬をかける。

 そうすると一瞬のうちに完治した。


 改めて恐ろしい即効性と効果だ。


「この通り!

 結構すごいでしょ。」


「痛く、なかったんですか……?」


 シルユが恐る恐る問いかけてくる。


「そりゃ痛いけど、こうでもしないと皆使ってくれそうもなかったし。

 でもこれで安心でしょ?」


 冒険者たちは別の意味で恐ろしさを感じてしまった。

 この少年、ちょっと普通じゃない。

 しかし、効果は立証されたので使わしてもらうことにした。



「すごいなこの薬……。」


「私たちの町で売っている物のどれよりもすごいわ。」



 ケガが癒えたようなので話を戻す。


「さっきの魔獣被害の減少に関しては多分僕たちが原因だと思う。

 僕らの主食があれだから。」


「なるほど、それなら安心しました。」


「しかし、ゴブリンやスライム達がこんな村を作ってるとはなぁ、驚いたぜ。」


 ライアンがそう褒めてくれた。


「よかったら好きなだけ見て行ってください。

 僕もあなたたちとはもっと話がしたい。」


「ああ、そうさせてもらうぜ。」



 そんな会話をしているとゾブレから念話が入った。


『ソラ様!! 緊急事態です!!!』


 かなり焦っているようだ。

 ただ事ではない様子。


『どうしたゾブレ!!』


『獣王の配下と思わしき者たちが集落方面へ進行中です!!

 目的はわかりませんが、かなりの武装をしています!!

 現在集落まで3km地点です!10分もせず到着します!』


 『わかった!

 速やかに戻ってきてくれ!

 見つからないように注意すように!』


 『わかりました!』



 そういうと念話は途切れた。


 集落全域に念話を飛ばし、非戦闘員は避難、討伐隊等戦闘員は

 戦闘準備に取り掛からせる。


 それとライアンたち。

 無関係の人たちを巻き込むわけにはいかない。

 すぐに自分たちに国に帰るよう伝えたが



「俺たちはこれでも腕が立つ。

 さっきの回復薬のお礼じゃないが、俺たちにも手伝わせてくれ。」


 他の2人も頷いて同意の意思を示す。

 口は少し悪いがこのライアンという人、かなり義理堅い人みたいだ。

 ここはお言葉に甘えることにした。


「ありがとう!」


 集落内の戦闘員と帰ってきたゾブレ隊を含め20人ちょっとが集まった。

 相手側の数とほぼ同じだ。


 10分後。


 集落へ獣人の者たちがソラの集落へと到着した。


 代表でリーダーっぽい奴がしゃべりだした。


「我らは獣王レオン様の使いにより参った!

 目的はお前たちを我らの配下へと向かい入れることである!!」


 チーターの特徴を持った獣人はそう言っている。

 いきなり何を言い出すかと思えば「配下になれ。」か……。

 面倒なことになりそうだ。


「この集落はなかなかのものだ。

 我らの配下となれば、労働力として使ってやろう!」


 なかなか失礼な奴だな。

 完全にこっちを見下しているみたいだ。

 まあ仕方ない。

 方やゴブリンとスライムと冒険者、ついでに人畜無害なガキンチョの集まりだからな。


 少し言い返そうとすると。


「貴様らいい加減にしろよ。

 配下になれだと?」


「ああ、雑魚共に役割を与えてやるんだ。

 殺さないだけでも感謝してほしいものだな。」


 キレたゾブレと相手のリーダーが火花を散らしている。


「雑魚かどうか、試してみるか?」


「良いだろう。」


 一瞬にして戦闘が始まってしまった。

 獣人たちは僕には目もくれず、ゴブリン達と交戦中。

 まさかこんな子供が長だとは夢にも思っていないだろう。


 ゴブリン達に加勢するようにライアン達も戦闘に加わる。


「くらえ!ライトニングソード!!!」


「ツインスラッシュ!!!」


「フレイムタワー!!!」


 ライアンは魔力を剣へまとわせた高速攻撃。

 アッシュは目にも止まらない双剣乱舞(僕には見えている)。

 シルユは炎の柱を出現させる魔法を繰り出した。


 それを食らった獣人たちは少し怯んだが大したダメージは受けていなさそうだ。

 ライアン達の攻撃はなかなか強力だったが、獣人たちも相当な手練れらしい。


「くそっ!効いてない!」


「化物共め!!」


 戦いはヒートアップし、そろそろ重傷者が出てもおかしくない状況だ。

 お互い怪我人が出る前に止めるとしよう。


 ソラは交戦地帯の中心へと一瞬で移動した。


「なんだ!?」


 驚く獣人たちをよそ目に、回し蹴りを一発繰り出す。


「ふっ!」


 蹴りで発生した衝撃波は敵味方問わず吹き飛ばし、一瞬にして戦闘を終了させた。


「いてて……なんだ……?」


「黙って見てたけどそこまでにしてほしい。

 お互い怪我人は出したくない。」


 吹き飛ばされた獣人たちは次々と立ち上がり、僕に目線を集めてくる。


 ライアンたちも同様に驚いた様子だ。


「挨拶が遅れたけど、僕がこの集落の長でソラといいます。

 ひとまず落ち着いて話たいんだけど。」


 獣人たちは予想外だったのか固まっていた。

 するとリーダー格が動いた。


「お前がレオン様に匹敵するとかいうやつか……んなわけねぇだろ!!!」


 なんか急にキレて切りかかってきた。

 さすがはチーターっぽい獣人。

 かなりのスピードだ。

 しかし


「単純だな。」


「んな!?」


 片手で相手の剣を受け止める。

 それで相手の戦意が少し緩んだところで。


「君たちの本当の目的はそうじゃないだろ?」


「っく!」


 反応から見るに図星のようだ。


「どういうことです?」


 ゾブレが質問してきた。


「本当に配下にしたいならあいつらだけで来ても意味ない。

 長である獣王レオンが直接来たほうが手っ取り早いからな。」


「なるほど!」


 ゾブレは納得してくれたようだ。


「おそらく君たちの本来の目的は視察程度。

 ところが集落の住民を見たことで制圧がたやすいと思い込んで接触してきた。

 違う?」


 獣人達は何も言わない。

 どうやら正解だったらしい。


 戦場だった場所に沈黙が訪れる。

 しかしその沈黙は突如崩れ去る。


『ああ、その通りだ。』


 その声と同時にこれまで感じたことのない強大な魔力があたりを包んだ。


「下がれ!!!!」


 仲間全員へ大声でそう促す。


 その直後目の前に膨大な魔力の塊が降ってきた。


 着地したそれは相変わらず魔力を放ち続けている。

 ゴブリン達だけでなく獣人やライアンたちまでもがその魔力に当てられてまともに立てなくなっていた。

 その場で正常なのは僕とミルだけだった。


「やはり、俺の勘は正しかったようだな。」


 舞い降りたそれは獅子のような大男。

 圧倒的な存在感だ。


「レオン様!?」


「まったくお前らは、見てくるだけって言ったじゃん。」


 どうやら相手のボスらしい。

 遠くでこちらを伺っていたようだが、僕ですら気付けなかった。


 恐ろしい相手だ。


「ソラと言ったな。

 俺はレオン、獣王なんて呼ばれてる。

 こいつらの保護者みたいなもんだ。

 非礼をお詫びしよう。」


「はじめまして、レオンさん。

 こちらこそ手荒な真似をしてしまって申し訳ない。」


 謝罪をいれて改めて話を続ける。


「配下云々はこいつらの勝手な考えだったが、一度こう争ったとなれば考えなくちゃならない。」


「どういうことですか。」


「魔物の世界は弱肉強食。

 強さを比べたがる性なのだ。

 お前たちという対等な存在が現れてしまったことで、俺たち長にその気がなくてもいつか配下の者たちがどちらが上かを決めたがる。」


「だったらここでどちらが上が決めようってことですか。」


「そういうことだ。」


 確かに他の皆に傷ついてほしくはない。


 一度ミルやゴブリン達に目配せすると皆頷いてくれた。

 決まりだ。


「わかりました、受けましょう。」


「了解だ。

 今すぐと言いたいところだが、日時は明日にしよう。」


「明日ですか?

 別にいいですけど今日はどうするんです?」


 今は夕方、明日までそこそこ時間がある。

 どこかで野宿させるわけにもいかない。


「いや、お前たちの町が少し気になってな。

 少し見ていきたいのだが……良いか?」


 相手のボスは思いのほかフレンドリーらしい。


「んじゃ今日は泊っていってください。

 夕飯も出しましょう。」


 戦いの前日ではあるがそう提案した。


「いや~ありがたい!

 お言葉に甘えさせてもらおう!」


 そういったレオンは魔力を引っ込め、配下たちとともに集落へ入っていった。


 明日の戦いに備え、互いに英気を養うのであった。

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