04話 動き出す者達
冥界の森から南東方面に位置する国、ガーディア共和国。
冥界の森と唯一隣接した国で、冒険者ギルド発祥の地でもある。
森と隣接しているため、魔獣討伐の依頼が多く上級冒険者たちが依頼を求め集まってくるのだ。
冒険者ギルド最高責任者のギルドマスター【アッガイ】は冥界の森からの魔獣被害に悩まされていた。
5年ほど前から魔獣の凶暴化し、以前までの依頼と難易度が一変。
それだけでなく凶暴化した魔獣が町まで降りてくるという事態が発生。
ほぼ毎日町へ被害が出る事態へと陥っていた。
しかしここ1週間、ほぼ毎日続いていた魔獣の被害がぴたりと止んだ。
初めの3日は、こんなこともあるだろうと思っていたが、1週間ともなれば森で何かあった可能性がある。
「う~む、被害は出したくないが……。」
調査の必要がある。
だが森の現状がどうなっているか分からない以上、下手に人員を投入するわけにもいかない。
考えられる可能性としは
①より強力な魔獣の誕生により被害を出していた魔獣が絶滅、もしくは激減した。
②生息域を変えた。
③その他人為的な何か原因。
今のところこんなところだ。
もし①の場合、調査隊全滅の可能性もあり得る。
しかし放置すればいずれ更なる被害をもたらす可能性すらある。
被害を出していた魔獣の危険度は最高C。
この国の冒険者なら何とか撃退できたが、それ以上の危険度ともなると難しいだろう。
【危険度】
S~Fまで設定されている。
S:神の領域 世界滅亡の脅威とされる。
A:勇者、魔王レベル 一国が滅びる危険性がある
B:人類の最上位、上位魔人、魔王幹部のレベル
C:人類上位クラス 町一つを滅ぼす危険性がある
D:中堅冒険者クラス
E:一般冒険者クラス
F:一般人クラス
大まかに分けてこのように設定されている。
また各ランク内でも細分化されることもある。
Bクラスの魔獣が生まれたともなれば、対処できるものが少ない。
精鋭を集め調査隊を結成することにした。
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そうして集められたのは3人。
体格の良い赤髪の男剣士、ライアン。
黒髪で少し細身の双剣使いの男、アッシュ。
金髪の少女の魔術師、シルエ。
三人とも国内では名の知れた実力者だ。
人数は少ないがこの三人を調査に向かわすことにした。
「冥界の森で何か異変があったかもしれない。
少数だが調査にあったってほしい。」
「少数すぎるだろ!
急に呼びだして何の仕事かと思えば!」
ライアンが不満げに声を荒げる。
「しかも今すぐ出発しろだと?
無茶ぶりが過ぎると思うが?」
「確かにもっともな意見だが、一刻も早く調査する必要がある。
甚大な被害が出る可能性が出る前に対処したいんだ。」
ライアンの言うことはもっともだが、時間がない。
「まぁ仕方ないですね。
ただし危険だと感じたらすぐ引き上げますからね。」
アッシュは否定的な意見は言わず承諾してくれた。
俺がこう言いだしたら揺るがないことを知っているのだ。
「私も行きます。
あそこには貴重な素材が大量だから行きたかったんだよね。」
シルユも別の目的があるとはいえ調査に参加してくれるようだ。
「はぁ、わかったよ。
そのかわり、なんもなかったらすぐ帰ってくるからな。」
二人が承諾したことでライアンも渋々参加してくれるようだ。
「ありがとう!
危険な仕事だ、アッシュが言うように危険と感じたら帰ってきてくれ。
私にとっても君たちを失うことのほうが痛い。」
「心配すんなって。
俺たちがそう簡単に死ぬかよ。
そんじゃいってくるぜ。」
そういって三人は冥界の森の森へ出発した。
「……そうだと、良いがな。」
わずかに不安を感じつつもアッガイは三人を送り出すのであった。
時を同じくして冥界の森中部。
岩山のふもとに位置する場所に大きな集落があった。
石造の住居を中心とした場所で獣の特徴を持った人型の魔物、獣人たちの住処だ。
家畜を育てるだけでなく、農業も取り入れ安定した食生活を実現している。
そんな集落の主はここ1週間、ただならぬ気配を感じていた。
「南東付近から発せられる気配が1週間前から大きくなった。
そしてそのなかに、俺に匹敵……いや、それ以上の何かを感じるのだ。」
配下の者たちは驚愕する。
「そんな!?
レオン様を超える存在がこの森にいるはずが!?」
「あり得ません!
そんなもの上位魔人であろうとそういないはず!」
【獣王レオン】
黄金の獅子の特徴をもった2.5mはある大男である。
黄金の鬣に褐色肌、顔つきは人間よりも獅子に近い。
その姿はどこか神々しく見るものを跪かせるほどの威厳を放っている。
常に落ち着いた雰囲気で付け入る隙すらない。
配下たちはレオンを崇拝している。
そのレオンが自分より強いものがいると言い出したことを信じたくはなかった。
「お前たち俺を過大評価しすぎなんだよ。
俺より強い奴なんて結構いる。
鬼の長とか、エルフの長とか、魔王とか。
それから竜種の奴らとかな〜」
砕けた口調でそう語る。
しかし今あげた者たちは現状世界の頂点に位置する存在に等しい。
逆にそういった者たち以外では彼には勝てないはずなのだ。
それにもかかわらず森の辺境でそれと同等の存在が確認されたとなれば、動かないわけにはいかない。
「ちょっくら調査してきてくれるか?
見てくるだけでいい。」
そういわれ配下たちは調査の準備を瞬く間に完了させた。
「編成完了しました!
私を含めた20人にて調査へ向かいます!」
「うむ。
くれぐれも過剰に接触しないようにな。」
「「はっ!」」
そして獣人たちは南東部へと調査へ向かった。
念を押しはしたが、レオンは少し不安だった。
(あいつらは少し気が早いところがある・・・
早まって交戦になったりでもしたら両者ともに被害が出るだろう……)
レオンは無益な争いを望まない。
この集落の長になったのも、仲間たちが傷つくことのないよう思ってのことだった。
魔物の世界は弱肉強食。
同じような力の者同士は争い、どちらが上かを競い合う。
しかし圧倒的な強さの前には争いすら起こらない。
レオンは自分が争いの抑止力となるようこの森の頂点へと上り詰めたのだ。
しかし自分に匹敵する力が現れてしまった。
向こうが好戦的な者たちであろうと、そうでなかろうと争いが起こる可能性は高いだろう。
俺や向こうの長に戦う意思がなくても、配下の者たちがそれを許さない。
必ず真の強者を決めるため争わなければならない。
弱肉強食の魔物世界はそういうものなのだ。
「……」
しばらく考え込んでからレオンは立ち上がる。
「俺自身で見極める必要があるのかもしれんな。」
獣王レオンが動き出す。