03話 住みやすい場所へ
魂の契約によって、魔物たちが進化して5日が経った。
「ソラ様!今日も一狩り行ってくるぜ!」
「期待して待っててくださいソラ様!」
ソラ様呼びが定着してしまった。
ゴブリン達は、元長ソブ率いるゾブ隊、その息子ゾブレ率いるゾブレ隊という名で討伐隊を結成した。
ともに10人ずつの編成になっており、アビリティ超感覚を引き継いだ武闘派ゴブリン達に加え、亜空間倉庫による倉庫要因として、スライムを2匹含めた編成だ。
「あんまり無茶しないようになー。
あとあんまり獲りすぎるなよー。」
「了解です、ソラ様!
では行って参ります!」
そう警告し討伐隊を送り出す。
しかしあまり心配はしていない。
進化したゴブリン達は、ゴブリンファイターとなり、以前恐れていたビッグボーアを二人掛かりであれば無傷で討伐できるまでに強くなった。
それに元長ゾブとゾブレはもう一段階上への進化を遂げ、ゴブリンウォリアーになった。
アビリティは超感覚と感知の両方を継承。
更に【理】のアビリティの影響か、【武の心得】というアビリティを取得しており、他のゴブリンをはるかに凌ぐ戦闘力となっていた。
【武の心得】の効果は【理】の下位互換的能力だが、それでも武器の扱いは見違えるほど上手くなった。
ビッグボーア3頭程度なら難なく一人で処理できるだろう。
そしてもう一つ。
魂の契約によって僕自身も一つアビリティを取得した。
【念話】
俗に言うテレパシー
契約したもの同士で使用できる。
同じ長の契約者なら誰とでも可能。
これの取得によって、異常事態が発生すれば即座に報告が可能。
討伐隊に何かあった時も、これがあれば安心だ。
討伐隊とは別に、スライムを中心とした探索隊も結成。
集落周辺の資源を集めてもらっている。
ここらへんで採れるものは
【クロマライト鉱石】
黒い光沢のある鉱石で、高純度の魔力を含む鉱石。
【オルゴー炭】
鉱石の一種。非常に強力な燃焼効果があり、耐水性も持っている。
そのうえ一度燃えると一か月は燃え続ける。
【アルシス草】
回復薬の材料として最も適した植物。
傷を癒すだけでなく、解毒効果もある。
【アーマーウッド】
一見普通の樹木だが、熱することで強靭な建材へと変化する。
代表的なものはこの4つになる。
クロマライトに関しては鍛冶職人でもないと最大限の効果は出せないらしいが、有り余るほど生えているので、鍛造し剣や槍を作ることにした。
アルシス草はスライムたちのスキル【調合】をフル活用し、回復薬へと調合してもらっている。
1個作るのに約30分。
村に待機させたスライムに担当してもらう。
スライムのアビリティ【亜空間倉庫】の効果で、集落外で採取しても、即座に集落内のスライムは調合に取り掛かることができる。
他のゴブリン達にはアーマーウッドを建材加工してもらい、住居を増やしてもらっている。
加工段階ではただの木なので、難なく家を完成させる。
そして完成後、火を放つことで強靭な耐久力を持つ家の完成だ。
アーマーウッドは集落周辺に生えている、というか冥界の森の樹木のほとんどがそれなので、集落を広げるための伐採作業でいくらでも手に入る。
そしてその伐採作業を誰がしているかというと……
「がんばれがんばれソーラ様っ!」
「はああ!!」
僕。
魔物たちは他の作業で手を付けれる余裕がないため僕が担当することになった。
そしてもう一人。
「凄まじい威力ですね!
たった一振りで20本も取れましたよ!」
「それを一瞬で吸い込める君のほうがすごいと思うよ、ミル。」
スライムの元長、ミルである。
ミルは進化してスーパースライムになった。
他のスライムたちはハイスライムへ進化したが、ミルはその一段階上だ。
現在はスライムの姿ではなく、スキル【擬態】を使い人間の姿になっていた。
紫のカールした髪が胸のあたりまで伸びた、僕より少し大人びた15歳程度の美少女になっていた。
「ミルってメスだったっけ?」
「いえ、スライムに性別はありませんよ!」
「じゃあなんでその姿なんだ?」
「人型だと移動しやすいですし、それに……」
「それに?」
「この姿のほうがソラ様が喜ぶかと思いまして。」
「ああ、なるほど。」
同じ人間に会えない僕が寂しがると思って気を遣ってくれたらしい。
寂しいと感じることはないが、そういう気持ちは嬉しかった。
ミルは進化してから感情表現が豊かになった。
それに他のスライムを凌駕する能力を持っているので、とても頼りになる。
しれっと超感覚と感知、武の心得のアビリティを継承しており、随分と多芸なスライムになっていた。
スキルの力も別格だ。
他のスライムが回復薬を作るのに30分かかるところを、ミルは1分足らずで完成させる。
しかも上位互換の超回復薬と、回復薬の調合を応用し万能薬をも作り出してくれた。
【回復薬】
傷を癒す + 解毒
ランクは下から、回復薬、上回復薬、超回復薬、完全回復薬。
回復薬は打撲や傷を修復できる程度。
上回復薬は骨折や内臓損傷を即座に修復。
超回復薬は肉体の欠損を修正。基本死んでいなければ修復可能。
完全回復薬は魂が残っていれば肉体を修復することができる。
【万能薬】
回復効果は上回復薬程度 + スタミナ回復
万能薬は回復薬を調合する際、ビッグボーアの肉を組み合わせることできる。
賢者の書のレシピをみてスライムたちに作らせてみたが、成功したのはミルだけだった。
万能薬を使用すれば満腹感も得られるし、疲れることなく作業を続けることができる。
心が死ぬまで永久に働くことができるため、過労死の心配がない。
ミルは伐採する僕の後ろから10分に一回くらいのペースで万能薬をぶっかけてくる。
このままじゃ永遠に木をこることになりそうだ。
今日こうやって木をなぎ倒しているのは建材確保のためだけではない。
「そろそろですよソラ様! ファイトですっ」
「そうか、なら気合入れて振るとするか!」
終わりが見えてきたので、全力で斧をぶん回し前進する。
すると衝撃波とともに前方の木々が次々に弾け跳び、宙を舞った。
それをすかさずミルは亜空間倉庫へと転送する。
500mほど突き進んみ、ついに目的地へと到着した。
「ふぅ~、疲れたー。」
「お疲れ様ですソラ様。 はい、万能薬です!」
「ありがとう、ミル。」
ミルから万能薬を受け取り一息つく。
「きれいな湖だな。
これなら生活水として十分使えそうだ。」
ここは集落から北方面にある山の山頂付近。
そこには大きな湖があった。
ここから集落へ水道を通す予定で、そのために樹木が邪魔なので今回伐採した。
山頂で付近からふもとまではかなりの高低差があるので、水圧を利用して水道を通せるのだ。
「あとは水管を通す穴を掘って、水管ができるのを待てば完成だな。」
「あ、ソラ様!」
「ん?」
「水管ならもう出来てますよ。」
「えっ!?」
「さっき移動しながら作っちゃいました!」
ミルは移動中に入手したアーマーウッドを体内で加工し、管上に作り替えてくれていた。
「ミル、そんなことまでできたのか……?」
「はい、さっき色々試してたら【体内加工】ってスキルを覚えちゃったみたいで。」
褒めてほしそうにしているのでとりあえず頭を撫でてあげた。
なんでも亜空間倉庫内をいじくってたら覚えたそうだ。
スキルを習得するのはそこまで難しいことではないらしい。
魔力をうまくコントロールできれば簡単なものならすぐに使えるようになる。
ただ魔法攻撃のように炎をだしたり水を出すなど属性を付与する場合、魔力を別の物質に変換するプロセスが必要になるため難易度が増すようだ。
しかし中には生まれながら魔力に属性が宿っている者もいるらしく、変換を省略できるそうだ。
それと比べてアビリティは日々修練を重ね、技能を魂に刻み込む必要があり、並大抵の鍛練では取得できない。
スキルと違い魔力を消費せずに効果を発揮できる分、取得難易度が高くなっているようだ。
しかし、賢者の書のように突発的に入手できるものも存在する。
しばらく湖を眺めて休憩とり、疲れも癒えた。
「じゃあ管を通しつつ集落へ戻ろうか。」
「はいっ!」
さっきゴール際で全力を出したおかげで、地面が抉れていたので少しだけ穴掘りの範囲を短縮できた。
水管を設置し、燃やして硬化させてから埋め立てる。
この作業をミルと協力しあい、集落までたどり着いたころには夕方になっていた。
念話であらかじめ集落内の配管は進めておくよう指示したので、後は接続するだけという状態だ。
各住居へはまだ通せていないが、共有のトイレと所々設置した蛇口、そして大浴場が使えるようになった。
5日でここまでは上出来だろう。
そう思いながら満足気に集落を見渡した。
夕飯はいつも通りビッグボーアと、討伐隊が新たに狩ってきた牛型の魔獣、ランスバッファロー。
2本の角がランスのように正面へ生えた、これも大型で危険度C相当の魔獣だ。味はほぼ牛肉。
美味しいけど最近肉ばっかりだから野菜も食べたいな。
今後農業も進めていくとしよう。
そして大浴場。
一応男湯、女湯で分けた。
スライムに性別はないためどっちに入っても問題ないのだが……
「一緒に入りましょうソラ様!」
ミルが女姿のまま男湯に突入してきた。
ゴブリン達はおろおろして目をそらしているが僕は動じない。
周りには酷だが一緒に入ることになった。
「いや~気持ちいですねぇ~」
「やっぱり風呂には入らないとな。
黙ってたけどみんなちょっと臭かったし。」
他の魔獣はわからないけどゴブリン達は風呂に入る風習はなかった。
川で水浴びは不定期でしてたらしいけど、なんというか、みんな酸っぱい臭いがしてた。
清潔感は大事。
病気の原因にもなるし、水道は通して大成功だったな。
「じーーーーーー」
「どうしたミル?」
ミルが僕のほうをじっと見ている。
より正確に言うと胸のあたりを。
「その首飾りきれいですね。
いつも付けてるけど、お風呂にまでつけてくるんですね。」
「あ、これか__」
僕は常日頃、首飾りをつけている。
翡翠色の宝玉に黄金の装飾が施されている物だ。
「これは師匠からもらったお守りみたいなものなんだ。」
「お守りですか?」
「これがあるから僕は生きていられる。大切なものなんだ。」
5年前ジエンに助けてもらったとき、僕は瀕死だったらしい。
意識が回復してからも、随分苦しんでいたようだ。
そんなときジエンがくれたのがこの首飾り。
僕の記憶は首飾りを身に付け、苦しみから解放された瞬間から。
それ以前に何があったのか分からない。
いつか記憶は戻るのだろうか。
風呂を堪能しさっぱりしたので、今日はぐっすり眠ることができそうだ。
明日以降も集落の開拓を進めていこう。
次は何を作ろうか。
そんなことを考えながら眠りにつくのであった。