憂鬱な少年
この世界に希望はない。
次期に自らの力によって滅んでいくだろう。
世界各地を旅してきた僕は幼くしてそう悟った。
ここは魔力に満ちた世界。
命ある者全てが魔力を持っている。
魔力を用いれば魔法を使えたり体を強化できたりとすごく便利な力だ。
みんなそう思うよね?
だけど僕はその魔力が使えない。
別に魔力がないわけじゃない。魔力は持っているけど使えないだけだ。
魔力を使うにはある条件を達成し覚醒する必要がある。
しかしこの覚醒、一般的には5歳〜8歳くらいで完了する。
条件がそこまで難しくないからだ。
僕?
12歳現在覚醒した覚えはありません。条件が何かも分かりません。
誰だよ条件考えた奴、せめて条件を教えて欲しかった。
魔力を使えない者は無能力者と呼ばれている。しかしそんな者は今や都市伝説レベルの存在だ。ここ最近発見された無能力者は僕だけ。周りの者たちは欠陥品だ無能だなんていってゴミのような扱いをしてきた。力ある者が正義、弱き者は必要とされない世界だ。
そして魔力の存在によって戦争は激しさを増していく。
近代兵器も強力だが、それよりも凶悪なのが能力者だ。
強力な能力者は重宝され、核兵器並の切り札となりえる。
現在世界各地で戦争が行われている。
人口は減り続ける一方。
ここ10年で4割減。
推測だがあと10年以内に人類は滅亡するといわれている。
戦死する能力者たち。
それによって親を失い身寄りもなく飢えて死んでいく子供たち。
戦争によって負の連鎖が加速していっている。
そして僕自身もその負の連鎖に巻き込まれた者の一人かもしれない。
かもしれないというのは、記憶が無いので断定できないためだ。
僕には7歳以前の記憶が無い。何かの事故に巻き込まれ名前以外は忘れてしまった。
親も消息不明。
そんな僕を養子に向かい入れ育ててくれた人がいた。今の僕の師匠だ。
師匠には感謝している。世の中がこんな人で溢れていれば、平和な世界ができるのだろう。
僕はこの世界が嫌いだ。
こんな世界を変えたい。
魔力を使えるようになり、圧倒的な力を手に入れれば戦争を止められるかもしれない。
世界を救えるかもしれない。
そう僕は信じている。
その実現のためにただひたすら修行に励んできた。
師匠の考案で大陸全土の武術を極めるなんてことにも挑戦することになった。
しかし結果は覚醒せず終了を迎えようとしている。
残り1つの流派をもって、大陸全ての武術制覇達成だ!
嬉しくねえよ!!
なぜこんなことになったのか。
最初は何の力もなかった。
僕はそれが悔しくて、寝る間も惜しんでひたすら体を鍛え続けた。
剣の振りすぎて、手の皮が抉れ、血みどろになったこともあった。
極寒の日も鍛錬に励み、猛暑の日も限界まで体を痛めつけ、何度も死にかけた。
それでも足りなかった。
だから、更に体を痛めつけた。
狂気じみた鍛錬量。
周りからは狂ってるだの、無駄な努力だの言われ続けた。
それでもやめなかった。
そんなこんなで一年近くが経過した頃、体に変化が訪れる。
めちゃくちゃ体が軽くなった。
剣が軽くなった。
周りの世界が遅くなった。
技も見れば真似できるようになった。
それからは早かった。
瞬く間に各地の武術を極めていく。
そして気が付けば大抵の相手には勝てるようになってしまっていた。
しかし、相変わらず魔力は使えない。
目的の覚醒とは別物の強さだったのだ。
強さを求めてはいたが、こんな結果は予想外だった。
しかし逆に考えれば、これに加えて魔力が使えるようになれば、更に強くなることができる。
目標に僅かながら近づいたわけだ。
そして、まあ、魔力の覚醒は半分諦めながらも、僕は最後の流派【グランス神滅流】の門をたたくのであった。
……一週間後。
グランス神滅流道場内。
二人の人物を囲うように門下生たちが座している。
一人はこの道場の師範グランス。
老いていながらも、凄まじい覇気を放つ佇まい。
2mはあるであろう大剣を片手で持ち、相手を見据えている。
そしてもう一人は、12歳の少年である。
美しい空色の髪と瞳をした身長140cm程度の少年は、落ち着いた様子で師範と同じ大剣を持ち、戦いに備えている。
「ソラよ、準備は良いか?」
名を呼ばれた少年は、淡々と答える。
「はい、よろしくお願いします。」
これより行われるのは皆伝の儀。
師範の攻撃を上回る技を出せれば合格だ。
ソラとグランスはゆっくり剣を構え、そして__
「行くぞ、七王斬!!!」
師範の攻撃、七王斬。
七方向からの同時に剣戟を繰り出す達人技だ。
門下生達は剣を振る動作すらまともに視認することができなかった。
しかし__
「……」
ソラは両手で剣を構えると迫りくる攻撃の中へと突っ込んだ。
(見切った__)
凄まじい速さの一振りを繰り出す。
轟音とともに道場内に衝撃波が吹き荒れる。
床は割れ、周囲の壁にひびが走った。
静まり返る道場、そこに勝者が立っていた。
少年のほうだ。
グランスは道場の端まで吹き飛ばされ、気絶している。
その背後にはソラの一撃によって真っ二つに割れた道場と大地が広がっている。
「……ありがとうございました……」
残念そうにそう言った少年は一礼して道場から出て行った。
グランスは大陸最強と噂されるほどの剣士である。
しかし、その強さ故まともに戦える者は近年現れなかった。
そんなときあの少年が現れた。
一週間前に現れたその少年は瞬く間に技を吸収し、最強の剣士を圧倒した。
恐ろしいまでの武の力。
誰が見ても文句なしにそう思うであろう。
しかし、門下生皆があの少年の存在を認めることができなかった。
「師範はスキルを使っていない!!本気になればあんな奴に負けるはずがない!!」
「そうだ!!無能力者が師範に勝てるわけがないんだ!!」
【スキル】
体に宿る魔力を用いて、身体能力の強化、魔法攻撃などを扱う能力の総称である。
大抵の人間ならば、普通に生活していても強弱はあれど、扱えるようになる。
スキルを使えないことは致命的だ。
スキルが使えないということは、己の持つ魔力をコントロールできないことに等しい。
魔力をコントロール出来れば、さらに身体能力を強化できる。
それが出来るのと出来ないのとでは、天と地ほどの差が生まれてしまう。
そのはずなのだが……
スキルを使ったところで、この道場であの少年に勝てるのはグランス以外いなかった。
天才と言われていた門下生の1人ですら、彼が入門したその日、手も足も出ず惨敗した。
そのあまりの強さに【武神】という二つ名まである。
本当は門下生一同、少年の強さは分かっていた。
それでもなお、認めたくなかったのだ。
魔力を使わぬ少年が、あれほど強いなんてことは。
彼が魔力をコントロールできるようになれば、世界を終わらせるほどの怪物が誕生してしまうかもしれない。
残された者たちはそんな恐ろしい想像をせざるを得なかった。
そして、この日をもって、少年ソラは大陸全ての武術を制覇してしまった。
覚醒するかも!という少年の僅かな期待はあっさり崩れ去ってしまったのであった。
はじめまして、PPPと申します。
読んでいただきありがとうございます。
かなり長編になる予定ですので、何卒宜しくお願いしますm(_ _)m