2.未練と納得
魔法とは一体いつ生じた現象なのだろう。
魔導とは、一体どれだけ世界の理を塗り替えたのだろう。
もう世界にはそれを説明出来る人間などいないが、
一つだけ誰もが分かっている事がある。
人は、魔法無しには生きられないのだと。
火の魔法は、戦争で圧倒的な破壊を生み出し、敵兵士に絶望を、味方兵士に希望を届ける。
水の魔法は、汚濁を荒々しく洗い流し、世界の清浄化に貢献する。
風の魔法は、大気の淀みを吹き飛ばし、人々の生活に必要なエネルギーを循環させる。
土の魔法は、人々の躯を癒し、あらゆる怪我を立ちどころに癒す。
”名門 ”と呼ばれる4家にはこの国を平定する義務がある。
本家でも、分家でも、あるいは市井から魔法使いの原石を探し出し、この国に繁栄と平和をもたらし続けるという、義務が。
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「本日の講義はこれまでです。レポートを明日までに纏めておくように。解散!」
王立魔法学院・アカデミーの今日が終わる。
市場での買い物に向かうもの、鍛錬場に向かうもの、家事の為に帰宅するもの、いずれにせよ生徒達は教室から姿を消しはじめる。
「おーい、マージ。今日も行くよね?」
ふと目を上げると見知った顔が覗いてくる。
肩の長さで揃えた茶髪に、優し気な目元が特徴の親友、ルディだ。
「おう。ちょっと待ってろ。」
直ぐに準備を整え、二人で揃って鍛錬場へ向かう。
もはや習慣となったいつもの日課だ。
「・・・」
いつもと違い、ルディが気遣うような、慰めるような視線を向けてくる。
「分かってた、事だからな。」
何でもない事のように、自分を納得させきったと、もう未練は無いと、ルディに伝える。
「10歳ちょうどの誕生日で魔法を発現させたものは歴史上で38人かぁ・・・」
「まぁ物語のように都合よくはいかないってことなんだろうなぁ」
「使用人のエリアスちゃんにはもう話が通ってるんだよね?」
「あぁ。あいつは体は弱いが、魔法の腕はピカ一。マーランド家はあいつのものってことになるんだろうな。」
「立場上は君が当主じゃないか。」
「立場上は、なぁ・・・」
そう、立場上は、なのだ。
どれだけの敵を屠る無双の剣も、
どれだけの骨を砕く拳も、
どれだけの戦力差を覆す知略も、
決して ”魔法 ”の2文字に敵うことなどありはしないのだから。