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魔道の名門貴族に生まれたんだが俺だけ魔法使えない件について  作者: 大葉餃子大盛
第1章:緋と抱擁と
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10.赤毛の帰還


* ** ** ** ** ** ** ** ** **


 ドーランド家の象徴である、敷地内に屹立する土色の尖塔が目に見えて来た。


 次に見えるのはドーランドの館を取り囲む、暗褐色の壁。それから縦幅5m、横幅が左門、右門でそれぞれ3mはある重厚な門扉。門の材質は、王都の、市民が住まう家々と比較すれば決して珍しくは無いが、貴族の屋敷としては極めて珍しい明褐色の木造。無骨な石造りに、レンガ造りの家とは一線を画した安らぎを与える印象だ。気のせいか、木の香りも精神を安らげてくれる気がする。門の屋根部分にはカワラ作り。15のガキが使うには巨大すぎる古びた石段。いつもと変わらぬ、ドーランド家式の独特な建築様式だ。


 門を潜り抜け、屋敷に戻る。


 「お帰りなさいませ、坊ちゃん。」


 「あぁ、ただいま。今日は疲れたよ。」


 「お帰りなさい。マージ様。」


 「ただいま、伊織さん。夕飯まで任せてしまって悪いね。」


 「いえ、お料理は好きなので。」


 屋敷の奥では、幾人かの従者と、それから伊織さんが、夕飯を作っている。

 今日は春野菜をいくつか揚げた天ぷらに、大鍋で煮込まれた肉の煮物といった風情だ。

 両方とも俺の好物で、否が応でもテンションが上がってしまう。


 「もう出来そうだね。さっさと着替えてくるよ。」


 「えぇ。それでは私は寝坊助エリアスを起こしてきますので。」



 「む。それは伊織さんだけに任すにはおしいなぁ。俺も行きたいよ。」


 「駄目ですよ。馬車の中で寝ているのを見るのは兎も角、淑女の寝起きを覗き見たいなどと、余り良い趣味とは言えませんよ。」


 「今まで散々見たってのに・・・  まぁいいや、じゃぁ任せるよ、伊織さん。」


 「えぇ、早く着替えてらしてください。」


* ** ** ** ** ** ** **


 夕飯は恙なく進行した。

 料理の出来栄えがどうだったかは、皆の満足そうな表情で全てを理解することが出来る。


 「ふぅ。」

 今日はいろいろあったが、もう流石に何も起きないだろう。

 明日のスケジュールは、オークの討伐の事後処理に、アカデミーでの訓練に…

 何気なく予定を脳内で組み立てていた時、ふと思考にノイズが走る感覚があった。

 何かを忘れているというか、そういえば「何か」が終わるときだったような。

 ソファで、食後の緑茶を啜りながら考えていると……



 「よーっす!元気してたかぁ!?」



 思考のノイズ、その原因がはっきり理解できた。

 その「何か」の到来だ。



* ** ** ** ** ** ** **



 「よーっす!元気してたかぁ!?」



 玄関先に、一人の女性が姿を現した。

 もう夜も更けて、玄関の奥にはわずかばかりの街の灯がぼんやりと見えるばかりだというのに、その女性が玄関のドアを開いた瞬間に、まるで晴天の澄んだ晴れ晴れとした空気が館内に充満するような、そんな印象を与える女性だ。

 身長は180cm程と女性にしてはかなり大きく、長く、美しい深紅の髪を頭の後ろで纏めている。次に目に付くのは高く、すらっとした鼻梁に、快活さを感じさせる目元。更に、いっそのこと暴力的なまでに肉感的な胸部、これが否が応でも万人の視線を集めてしまう。一方で、赤を基調とした分厚いブーツに、赤いクラシカルな男性物の外装、更にはフード付きの赤い外套で身を包んでいる。女性的な外見に反して、何とも奇妙な衣装に身を包んでいるが、それは彼女の魅力を損なう理由にはなりはしない。いや、あるいは魅力を何割か損なっているのかも知れないが、しかしそれを十分に補いきれる程に、彼女の美しさは群を抜いていた。寧ろ、男性的な外装が彼女にスポーティさと快活さを更に+して、健康的な色気ともいえるような、特異且つ未知なる魅力を彼女に与えていた。

 美しく、且つ特異な彼女の外見は、ある種他者に遠慮というか、触れる事、近づく事すら躊躇わせる迫力を湛えているが………




「ギューッ!」


「お帰りシアンさん!」



「ギュギュッー!」


「あんれまぁ、こんな老木にまでそんな。はいはい、お帰りなさいまし。」



「おーっ! いおりんじゃん!! はーいっギューっ!!」


「お帰り、シアン。今回も長かったね。お疲れさまでした。」



 迫力とは何だったのか。帰るなり早々、従者たちにハグを只管にかましていく姿は、外見からは考えられない無邪気さと無垢さを感じさせる。いっそのこと、幼稚と言ってしまってもいいかもしれない。コウノトリやキャベツ畑を未だに信じ切っている純粋無垢な子供のような、成熟仕切った女性としては特異な精神を有している。



彼女の名前はシアン・ロバーランド。

もうドーランド家に10年も居着いている、居候だ。



ふと、ソファで寛ぐ俺の方に視線を向ける。



「おーっ!! まーちゃん!! シアンさんが帰ってきたよーっ!!」


「あぁ、お帰り、シアン。今回の仕事もお疲れさま。」



「へっへっへー。頑張ったんだよ~、ホントに。 はーいギューッ!!!」


「わぶっ」


 ソファに座っている所にシアンが思いっきり突っ込んでくるもんだから、彼女の豊満な胸に顔面が埋もれてしまう形になってしまった。不可抗力ではあるし、慣れたものとはいえ、正直未だにドギマギしてしまう。



「あーっ。まーちゃん照れてやんのー!! やーい思春期ー」


「そりゃ誰だって照れるっつーの。思春期ってそりゃ思春期真っ盛りだよ。意識もするつーの。」


「そっかそっかー。えっへっへー。」


 満開の向日葵を思わせる彼女の笑顔に、釣られてこちらも笑顔になってしまう。





「お仕事のレンラクもいっぱいあるんだけどさ~~」



 気のせいだろうか、ふと、彼女が目を細め、その目に嗜虐が宿った気がしたが、、、




「一つ、まーちゃんに一緒にやってほしいこと、あるんだよね~。」


 その言葉と、表情から、彼女の嗜虐が決して気のせいでは無い事を、思い知る。



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