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魔道の名門貴族に生まれたんだが俺だけ魔法使えない件について  作者: 大葉餃子大盛
第1章:緋と抱擁と
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9.王都の夕暮れ


 ジジイの店に寄って、大分時間が立ってしまった。


 路地裏を抜けて、大通りへ抜ける。それから、疾走という程でも無く、ゆったりと言える速度でも無く、今日の夕飯に期待する分だけ、食い意地という無限に沸き続けるエネルギーを生成し、そのエネルギーを足へ伝動させながら、速度を増しつつ貴族街へ急ぐ。


 空はもう完全に夕方になり、王都を不気味なほどに橙一色に染めている。走る俺のすぐ前に影を落とし、少しずつ形を変えながら背後に置き去りにされていく川向いの尖塔の影、夕飯の匂いが立ち上り、ランプに火が灯されていく家屋、もうもうと煙を吐き出し続け、夕飯の時間も無視して稼働し続ける工場に、手と手を繋いでお互いに笑いあい、家路への道を急ぐ親子・・・


 こんな絵画、ウチの画廊に飾ってあったっけ。

 確か、王都の著名な芸術家が描いた傑作とかだった。

 タイトルは確か『王都の夕暮れ』…… まんまだな。絵画のタイトルも、絵画とこの風景も……

 まるで、本当に、この風景を切り取って絵画に起こしたような、そんな絵画だった覚えがある。

 何度も、何度も、100回は見た光景だから、はっきりと思い出せる。

 余りのリアルさに内心憧れて、何回か真似して写生したこともあった。

 生前のお母さまに何度も見てもらって、「上手な絵ね、素敵」なんて言われて貰って嬉しかった覚えがある。魔法使いこそが正義で、魔法を使えない者……… 俺、には苦しくて、生き難い世界であっても、魔法が関係ない技術や思いによって生まれる絵画には、魔法以上の価値があるのだと、そう思えた気がして。


 結局、絵画の再現は未だに出来っこなくて、お母さまももういない。たまに、本当にたまにこの風景を描くことはあっても、お母さまに会うことはもう敵わないのだろう。

 絵画の主は結局誰なのだろうか?まだ王都に居るのだろうか?居るのならば、ドーランド家の力で会うことも考えられない話じゃ無い。しかし、未だに会うことは敵っていない。絵画の主に会うことを試みなかった訳じゃない。もっと、本当にずっと昔、まだドーランド家に力があった頃、執事連中と家政婦連中に無理を伝え、幼い暴君として振る舞って、王都を探し回らせた事がある。

 それでも見つから無かったのだから、一度は諦めた。今は、、、、今は、もう無理だろうか。今や執事も家政婦も、大分数を減らしてしまった。ドーランドの力は衰退するばかりで、そして何よりもそんな下らない事に、態々人手を割く下らなさを知ってしまった。もうそんなことは、実利面でも、心情的にも出来っこ無い。そして何よりも、かつて、お母さまが生きていた頃の、あの頃の思い出の何もかもを、心の聖域としてしまっている自覚があるから、もうその聖域に好奇心という名の筆を走らせたくは無いのだ。



 内心に、幼い日の後悔とそれからもう戻らないだろう日々を思い出して、もの悲しいノスタルジーが去来するが、それを封じ込めながら家路を急ぐ。



 それでも、、、 会えるならば、、 絵画の、魔法の依らない力を、俺にもう一度見せて欲しい。

 本当は、封じ込めるはずもない心は、澱となって内心にへばりつく。


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