遙かなる望郷の地へ-79◇「公都攻防戦5」
■ジョフ大公国/公都/公都前防衛陣地
「・・・よく考えられての判断、なのでしょうな」
物を問うように片眉をゆっくりと上げる。感情的か否か──斯様な事態にあって、判断する立場にある者が冷静さを失ってはならない。レアランにして、これからジョフ大公国を導いていけるかどうか、その試金石となる状況であった。
「はい」
思いの外、静かな口調が返ってくる。
「ケイセルとパリスには、この本陣とレスコーさまと大戦士さまの部隊との間の伝令を努めて貰います。わたくしは相手の上を飛び、全体の状況を把握すると共に、反撃のタイミングを図ります」
レアランの答えに迷いはなかった。澄んだ瞳は、真っ向からカイファートを見返してくる。
「・・・些か、不躾な尋ね方でした。無礼をお許し下され」
「いいえ。国を護らんとする想いの顕れと受け取りました。これからも、遠慮することなく仰って下さい」
「了解致しました」
カイファートは、微かな笑みを表情に浮かべた。自分の見込みは、決して間違ってはいなかったと。故に、この人を守り、この戦いを勝ち抜かねばならないとの想いを新たにした。
「出発は、何時を考えられていますか?」
「明るくなる前に出発します」
「判りました。その頃までのは、防御陣地の目処も立っているでしょう」
「はい。ツィーテンさまにはとても助けて貰っておりますわ」
「流石に、レスコー殿が副官にする人物ですな」
「そうですね。わたくしたちの国も、あの方のような人材を育てねばなりませんね」
「左様ですな」
話している間も、陣地構築がツィーテンの指揮の下に大車輪で進む。市民の多くも作業に自発的に協力しており、予想以上の急ピッチで形が出来上がっていく。
「大公女様。夕餉をお取りになって、少しお休み下さい。ここは、私が見ておりますので」
言葉を返そうとするレアランを遮って続ける。
「駄目ですぞ。夜更かしはお肌に良くはございません。大公女様の美しいお姿を見てこそ、将兵達の志気も上がろうというものです」
「・・・判りました。ここはお任せして、わたくしは少し休ませて頂きます」
「そうされて下され」
笑顔でカイファートに会釈をすると、レアランは宮殿へと戻っていった。残ったカイファートは、闇の帳が降り始めた空を見上げた。
長らくお待たせしてしまって恐縮です。「遙か」ですが、物語は徐々に佳境に入ろうとしております。今後とも、宜しくお願い申し上げます。