遙かなる望郷の地へ-63◆「公国軍進撃3」
■ジョフ大公国/ジョフ平原
アルノがその場を離れた後、グランは臨時の野戦会議を終えることとして参加者全員に解散を申し付けた。
“考えられる手は打ったつもりだ、ベストとは言わないまでもベターであったとは信じたいものだ。あとは公都への移動命令を出したギー・ガルダンの軽騎兵第二連隊400騎が如何なるタイミングで戦場に到着するかだな、それにモラン公の援軍もあてに出来るだろう”
グランは後ろにつき従える機動戦力を振り返った。
“普通のオークの大群だけなら何と言うことは無いだろう・・・だが後ろに居るだろう黒い影の存在だけが気に掛かるが、罠と知りつつも罠ごと食い破る必要性が有るかも知れないな”
そんな事を考えながら、グランは伝令の兵に命令を伝える。
「夜営に適したところを選び出し準備にかかれ」
☆ ☆ ☆
程なく、適当な野営地が見つかり、全軍は休息に付いた。
「周囲には、二名ずつの歩哨を立てておいたよ。ウチの連隊でもそれなりに熟練を当てたから、大丈夫と思う」
「了解だ、マイラム」
外からは見えないように細工した焚き火に、軽騎兵第四連隊隊長マイラム・トランターが歩いてきた。既に、そこには装甲騎兵連隊隊長のフレム・リュティエンスとLAG(親衛騎士団)副隊長のアルノ・カリスタンが火に当たっていた。
「お茶を淹れてある。飲むか?」
「貰うよ。ありがとう、フレム」
フレムがマイラムにお茶の入った錫のカップを渡した。この三人は同年代で、兵種は違えどもジョフ再興の志を同じくする仲間だった。
「寡兵で逆包囲とは、思い切った作戦だね」
「まぁな。提案したバルト様も凄いが、その提案を入れて一気に作戦を進める大戦士様も大したものだ」
マイラムとフレムの言葉に、アルノも頷いた。
「そうですね。ですから、何としてもこの作戦、成功させなければ」
「もち」
「無論だ」
「楽観は出来ませんが、全員で力を合わせれば・・・」
アルノの言葉は、歩哨の誰何の声に遮られた。カップを捨てると、即座に三人とも反応する。
「どうしたっ!」
「あ、隊長!」
軽騎兵の隊員達が輪になっていた。マイラムがその輪に割ってはいる。
「これは・・・」
倒れていたのは、軽騎兵の軍服を着た男だった。
「第一連隊の隊員のようです。応急手当はやってみましたが・・・もう、ほとんど手遅れで・・・」
「なんと・・・。アルノ、大戦士様を呼んできてくれ。これは、一大事になるかもしれん」
「総員、警戒態勢だ!」
フレムが叫ぶと、俄然野営地が騒がしくなる。
「大丈夫か」
地面に寝かされた男の傍らに跪いたマイラムが聞く。
「・・・あ、なたは・・・」
「軽騎四のトランターだ。しゃべるな。今はゆっくり休め」
「・・・伝えたい・・・ことが・・・」
その男は身を起こすと、震える手で必死にマイラムの軍服の上衣にすがった。
「・・・私は・・・第・・・一の・・・」
「軽騎一か?」
男は、辛うじて頷いた。
「・・・我が隊は・・・巨人に・・・巨人の群に・・・襲われて・・・」
「なんだと!」
「・・・部隊は、散り散りに・・・」
マイラムとフレムは顔を見合わせた。──巨人だって? 一体どこからだ?
「どこで襲われた? ルーは、リェス隊長はどうした?」
「・・・た・・・隊長は・・・」
男は大きく目を剥くと、必死にマイラムにしがみついて・・・動かなくなった。
「・・・」
そっとその勇敢な軽騎兵の目を閉ざしてやると、マイラムは立ち上がった。
「ルーの軽騎一は“障壁”山脈(BARRIER PEAKS)の南の腕を担当していた。ギーの軽騎二ではなく、ルーが攻撃されたというと・・・」
「新しい敵、と考えた方がいいだろうな」
「なんてこった!」
「マイラム! フレム! 大戦士様を連れてきたぞ!」
軽騎兵達が開けた道を、アルノがグランを連れて、二人の所に早足で戻ってくるところだった。
■作戦マップ
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5│▲│W│W│ │ │ │ │W│W│R│W│
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6│▲│W│W│W│W│ │ │W│W│W│R│
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7│▲│W│W│W│W│ │ │G│∩│∩│∩│
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8│▲│▲│W│W│ │L│ │◎│∩│∩│∩│
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9│▲│▲│W│▲│▲│▲│∩│∩│∩│∩│∩│
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0│▲│▲│▲│▲│▲│▲│∩│∩│∩│∩│∩│
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備考:▲山地 ∩丘陵 W森林 R河川 ◎公都
Gグラン軍 Lレスコー軍