遙かなる望郷の地へ-62◎「深まる懸念8」
■ジョフ大公国/宮殿/大広間
「覚えておこう」
エリアドの言葉に頷くサッコゥ。
二人のやりとりを見ていた“放浪の戦士”は大仰に溜息を付く。
そんな態度に苦笑を浮かべつつ、サッコゥは丁寧にレムリアに尋ねた。
「レムリア殿。まことお手数とは思うが、先程魔剣士殿に尋ねた事柄を“観て”頂けないだろうか?」
「もちろんですわ、剣のサッコゥさま」
微笑んで頷くと、レムリアは部屋の中央に立ち、腰に下げた宝剣“タイン”を引き抜いた。
「ヴェスベを護る宝剣か・・・」
“放浪の戦士”が呟く中、レムリアは両手でタインを握りしめると、トランス状態に入った。その瞳が宙を見据え、内に瞬くような光を宿していく。途端、レムリアの前に黒い霧の様なものが沸き起こった。
「全員、動くな!!」
“放浪の戦士”が鋭い声で警告を放つと、ゆっくりと背負った両用剣を引き抜いた。呟くように剣に話しかけると、剣が碧の輝きを放ち始めた。それと同時に、吹き出るようであった黒い霧の勢いが衰える。
「・・・光、道を別れたれば、輝き、そして失わせしむ。
・・・影、まさに放たれたれば、闇、全てを覆いつくさん。
・・・天に地が、輝く雷光で繋がれし時、守りし心にして捕らわれせしむ。
・・・全ては、己が心のままに」
崩れるように倒れるレムリアを支えつつ、詠唱が終わった瞬間に、“放浪の戦士”は蠢く影を一刀両断した。影は胡散霧消する。
「ほら、お姫さんをしっかり支えなよ」
レムリアをエリアドに預けると、“放浪の戦士”はやれやれとばかりに肩を竦めた。
「予想以上の厄介事だよ。完全に残業だね、コイツは」