遙かなる望郷の地へ-61◇「公都攻防戦2」
■ジョフ大公国/宮殿/大手門
「こんちわ、お姫さん」
やぁ、と片手を上げての挨拶をするのは、レスコー司令官代理であるレジナルド・ツィーテン。気安くレアラン大公女に話し掛けるツィーテンに、ジャン・バルトはわなわなと碇に震える。コーランドの三隊長はと言うと、“何も見なかった”とばかりに明後日の方向を向いていた。
「ツィーテン殿っ!」
「なんでしょ?」
「貴公、仮にも一国の主権者相手に、何と軽い呼び掛け方!」
「そっかなぁ?」
反省の色というか、そもそも意識が全くないツィーテンに、血管が切れそうになっているジャン・バルト。だが、そこにレアラン大公女当人が介入した。
「良いのです、ジャン・バルト卿。余所余所しくなくて、わたくしは逆に嬉しく感じているのですよ」
「・・・・・・大公女殿下が、そう仰るのでしたら、当職になんの依存がござろう」
とは言っても、これ以上は許さぬぞという意思を秘めた眼差しは、のほほんとした相手を貫くかのようだった。
「ま、それはさておき。ここの防衛戦の話ですよね? ちょいと工夫しないと、苦戦必須って感じですよ」
「そうなのでしょうか?」
「えぇ、もち。でも、逆に細工すれば全然オッケイですからね」
心配要りませんよとレアランに言いつつ、距離を置いているコーランド三隊長を手招きした。
「なんですか、ツィーテン殿」
三人を代表して、慎重に問いかけるトゥーロン隊長。ごくりと喉を鳴らす。
「えっとね、要塞線を構築して欲しいんだ。地形を有効に活用して──そうだね、あそこに豪を三線引いて、後ろに逆望木。軽歩兵の長弓を最大限に生かしたいからね」
「要塞ですか?」
やれやれまたかと、三隊長は顔を見合わせた。
「そのとーり、要塞線ですよ。トリアノンさんからは『幾ら働かせても良いから、公都を護ってね(はぁと)』って言われているから、何でもオッケイなんだよ」
「うわぁ・・・」
声にならない悲鳴を上げて、頭を抱える三隊長。その光景を微笑んで見る大公女と、訳が分からないと言う表情のジャン・バルト。
「・・・わかりました。判りましたとも」
自棄になったようにトゥーロンが言うと、コルベールがその後を引き取った。
「はやいとこ済ませてしまいましょう。どうすれば良いんですか、司令官代理殿」
「言い方に棘があるな〜。でも、まぁいいや」
ぼやきながらも、そのひょろひょろした青年は、防衛プランについて説明していく。
「市民にも、手伝って貰う訳ですね」
「そうなんですよ、お姫さん。やって貰えますか?」
「わたくし自身が呼びかけましょう」
「それはバッチグーですね」
「ばっち?」
「万事良好イエッサーってやつですよ」
「は、はい。」
おかしな言い回しを使いまくるツィーテンに、ちょっと翻弄され気味の大公女殿下だった。
「ところでさ、アマン。“猟兵”は何人連れてる?」
「全体で二個小隊くらいですが」
「おっけ。それじゃ、その二個小隊はフィリップが率いてね。長弓装備の軽歩兵は、全部カレンが指揮して」
「・・・私は索敵任務ですか?」
「それだけじゃないよ」
にこにこする相手に、更なる脱力感を覚える三隊長だった。