遙かなる望郷の地へ-60◆「友軍前進」
■ジョフ大公国/宮殿/大手門→HORN森林
一糸乱れぬ縦列を組みながら、コーランド重騎兵第二連隊は一路北西の方角に進んでいた。精強を持って鳴るコーランド軍の中でも、幾たびの実戦で鍛えられているこの重騎兵第二連隊の実力は折り紙付きだった。部隊を率いるのはルージ・デ・ラ・ポルタ。かの高名な鉄公爵(アイアンデュ−ク)、騎士団領を治めるセバスチアーニ・デ・ラ・ポルタ公爵の長男である。
「この作戦、機動力と突貫力が全てと言っても過言ではありませんね、トリアノン」
縦列の先頭を駆けるコーランド北遣軍の司令官、トリアノン・レスコーはおっとりした口調で返した。
「その戦法、あなたの得意中の得意でしょう?」
「父上直伝、と言っても良いでしょうね」
ルージは笑みを浮かべて、傍らの女性騎士に言う。
「それにしても・・・貴女はいつも通り、全く動じても動揺してもおりませんね」
「物事に対して鈍感なのでしょう」
「まさか。騎士総帥候補にもなれそうな貴女が…」
「相手を買い被り過ぎるのは、よくありませんよ」
自分の視野を他者からの固定概念で定めてしまってはいけませんよ、と朗らかに笑った。司令官のそんな明るい雰囲気は、連隊全員に染み渡り、その志気を盛り上げて行く。どんな状況下でも心の余裕を失わない──これが、トリアノンをして若輩者であるにも拘わらず、ギャルド・シュヴァリエ、ひいては北遣軍司令官にならしめている理由の一つなのだろう。
「自分で判断して申し上げているのですが」
「ふふふ」
弟扱いで、まともに相手にもされていないと感じることには多少辛いものもあったが、それでも一緒に戦場に乗り入れる相手としては最高だと密かにルージは思っていた。いや、ルージばかりではない。これは、第二連隊の重騎兵たち全員の総意でもあろう。
「それにしても、公都前面の防衛線は持ちますかね?」
「そうね。ツィーテンを置いてきたから、三日は持たせてくれるでしょうけど」
「魔導砲兵がいないのが痛いですね」
「無いものねだりをしても仕方がないわ。それに、女王陛下にこの状況が報告されているでしょうから、イストヴィンのモラン公が援軍を出してくれているはずよ。もしかすると、直々にいらっしゃるかもね」
「それは、十分にあり得るかも知れませんね」
「えぇ。でも、早くても到着は五日後だから、一度は相手を蹴散らさないとね。わたし達と、大戦士さまの行動に掛かっているということよ」
「重々承知しておりますよ」
「結構です」
笑って言うと、二人は縦列を先導して更に速度を上げていった。目的地のHORNWOOD迄は、まだ一日の行程を残していた。
グラン率いるジュフ軍とは別行動の、トリアノン・レスコー率いるコーランド軍の状況です。