遙かなる望郷の地へ-58◎「深まる懸念7」
■ジョフ大公国/宮殿/大広間
「暫し待たれよ」
重々しく剣のサッコゥは言った。
「確かに、己が卑小な面目に拘る余り、大局を見失っていると物言いには否定しきれんものがある。その上、夢見姫殿がさきほど言われた事が事実だとすれば、我らの手の内は読まれてしまっている。今や為す術もなく戦力を分散させてしてしまっている我らは、このままだと相手方の格好の餌食となってしまうな」
「そんじゃ、どうするのかい?」
“放浪の戦士”は戸口で立ち止まると振り返った。サッコゥはちらりとレムリアに視線を振った後、エリアドに向き直った。
「魔剣士エリアド殿。夢見姫レムリア殿のお力を借りたいのだが、如何か。可能で有れば、敵軍の後方に回ったジョフ並びにコーランドの騎甲部隊について“観て”頂きたいのだが」
☆ ☆ ☆
“・・・悪ふざけをしてみたり、怒ってみせたり、突き放してみたり。・・・正直、よくわからない御仁だな。私たちを試していたのか? それとも、動かそうとしていたのか・・・”
エリアドは“シレイナス”と名乗った、自称“放浪の戦士”をちらりと見た。
“一見、統一された意思の下に動いているように見える“闇”の側の秩序だった行動に比べ、我らの側は、各人の目指しているものがあまりに異なる。それは、間違いのないところだ”
“・・・いずれにしても、我らがよほど不甲斐なく見えるのだろうな”
『・・・敵軍の後方に回ったジョフ並びにコーランドの騎甲部隊について“観て”頂きたいのだが』
龍騎聖が一人“剣のサッコゥ”のその言葉に我に返る。
「・・・レムリアに何かを頼みたいのであれば、それを私に聞く必要はない。その判断は彼女自身がする」
そのように応じると、エリアドは傍らのレムリアに視線を振った。
「・・・だが、レムリア。すまないが、私からも頼みたい。やってみてもらえるか?」