遙かなる望郷の地へ-57◇「公都攻防戦」
■ジョフ大公国/宮殿/大手門
それまで、静かに静止していたかのような軍は、ゆっくりと各方面に動き出した。
グラン率いるジョフ公国軍437名は、OYT森林からの右の腕を引き受けるべく北東に進軍を開始した。その隊列はグランと彼に付き従う親衛騎士達を頂点に、120騎の装甲騎兵が外を、練度の低い軽騎兵が中を埋めている。
他方、北西の方向に向かうのはトリアノン・レスコー率いるコーランド重騎兵が500騎。練度も志気も至って高く、且つコーランドギャルドでも名の通った騎士に率いられる彼らには露程の迷いもなかった。彼らに、“自国以外の国で命を散らす可能性”を問うたとしても、“それが人の有るべき姿だからだ”という答えしか返ってこないだろう。HORN森林からの、長い左腕を担当する彼らは、先頭に司令官を抱いた五列の単罫陣を組むと、ギャロップで走り去っていった。
二つの縦列が地平に消えてゆくのを眺めながら、レアランは傍らに控えるジャン・バルトに言った。
「ジャン・バルト卿。わたくし達も行きましょう。準備しなければならないことは、まだ沢山あります。そして、その為の時間があまりありません」
「御意」
短く答えると、直ぐにジャン・バルトは大音声を発した。
「各連隊の指揮官は大公女殿下の元へ来たれぃ!!」
ジャン・バルトの呆れる程の大音声が聞こえぬ筈もなく、コーランド軍各連隊の隊長と、ジョフ装甲歩兵連隊の隊長であるゴーター卿の4人が集まった。
「大公女殿下。お呼びにより参上仕りました」
大仰な物言いを好むゴーター卿が、相変わらずの挨拶を述べる。続いて、コーランド軍の隊長達が一人ずつ挨拶をした。
「重歩兵第三連隊隊長のアマン・トゥーロンであります」
「軽歩兵第六連隊を率いるフィリップ・コルベールです。以降、お見知り置きを」
「軽歩兵第八連隊指揮官、カレン・ケイスナルドと申します」
おほん、とトゥーロン隊長が咳払いすると、付け加えた。
「この他に、レスコー司令官代理がおるのですが、一体、何処に行ったのやら…」
「司令代理は、物事に没頭する癖がおありだからなぁ」
「そうですね」
コルベールとケイスナルドがトゥーロンの見解に同意。三人して溜息を付いたところ、陽気な声が掛かった。
「あれ、君たち。集まって何しているの?」
「「「ツィーテン殿っ!」」」
三人の声がハモり、ジャン・バルトとゴーターが顔を見合わせた。遅れてきたひょろ長い青年は、悪い悪いと良いながらも、悪びれずにこにこと笑っている。
サブタイトル途中の記号が「◆」でグラン本編、「◇」でレアラン大公女公都前面攻防戦編、「◎」で派生編となります。宜しくお願い申し上げます。