遙かなる望郷の地へ-56◆「公国軍進撃」
■ジョフ大公国/宮殿/大手門→OYT森林
コーランド軍の行軍と違い、ジョフ軍の行軍はとても人に見せられるものではなかった。止むを得ず、指揮官たるグランが直々に第四連隊の小隊長を呼びつけ幾つかの指示を出した。行軍というより実戦に近い突撃、停止、等の緩急を入れ、グランは全軍のバランスを見ていた。
“最悪のシナリオ、万が一に敵に我が方の戦術を看過されていた場合、長槍の槍襖に突撃をかけ、止まらない後続に押し出されたら我が軍は全滅する”
一方で敵中で突破を阻止され包囲された場合も、待ち受ける運命は同じである。最悪のケースはあらかじめ軽騎兵を切り離し、重装騎士と近衛騎士のみでの突撃も考えていた。
「あるいは、この戦いの鍵を握るのそなたら小隊長達かもしれぬぞ」
第四連隊所属の六名の小隊長に話した。乱戦の中、真に重要な働きをするのは高級士官でも兵でもなく、熟練の彼らであることはグランが一番知っていた。
「練度は低いかも知れませんが、意気は他の部隊には負けませんよ」
「あ、隊長」
後方から馬を早めて追いついてきたのは、この軽騎兵第四連隊を預かるマイラム・トランター隊長だった。小隊長達が脇による。
「訓練自体はちょいと不足しておりますが、それは戦術的な運用で補えると思います。ご覧になって下さい」
トランターはそう言うと、馬上で使う短弓を取り出した。
「第四連隊は、急遽全員に短弓を装備させております。各自は矢筒を二つ携帯しており、合計四十本の矢を放てます」
にやりと笑うと、先を続けた。
「それだけじゃありません。後方のあの三頭の馬には、GREEK FIRE OILを積んでいます。即ち、我々の初弾は“火矢”になるって訳です。軽騎兵第四連隊、司令官閣下の足手まといには、ならない積もりですよ」
話を聞いていたのであろう回りの小隊長達も、一様に不適な笑みを浮かべていた。
「但し、突撃時にはどうしても練度の問題が出てしまいます。我々の後方に、煽り役として装甲騎兵連隊から一個小隊回して貰うと、その問題も幾分解決出来るでしょう」