遙かなる望郷の地へ-46◆「閲兵式」
■ジョフ大公国/宮殿/廊下→大手門
グランが外に表れると、巨大な生物が主に付き従うように姿を現せた。厩舎から慌てて引き出されたものの、半ば従卒を引きずるように現れたのは愛馬『黒王』である。主の心の悩みを見透かしたような視線を送ると早く背に乗れとばかりに嘶いた。
「判っているよ」
愛馬の首を数度叩くと小山の様な高さの背に飛び乗った。漆黒の巨躯でグランと共に幾多の戦場を生き延びた誇り高い生き物は馬とはいえ、自分の認めた者以外は決して背には乗せない。
その愛馬と会話が出来るとは言わないが、気持ちが通い合うのは間違えはない。
明るい昼下がりの陽光を浴びて唯でさえ目立つ戦士が一際大きく見える。
聖戦士となってより白く輝いていた板金の鎧は、今は敢えて己の親衛騎団と合わせて専属の職人により黒に染め抜かれ見事な光沢をたたえている、銘の由来であるルーン文字は金色に輝き、その存在を強くアピールする。周囲の戦友の防御力と比べると若干劣るものの『ルーンプレート』に身を包み今回も戦場に臨む。
その鉄塊は、並みの戦士では持ち上げることも出来ない程の大振りな剣である。
しかし、鋼の中に炎の精霊の力を宿し、そして主神ヘイローニアスの加護を併せ持つこの世に二振りと存在しない業物である。昨今、この国に眠る秘奥義を極めた今となっては、相乗効果は計り知れないものである。
『炎の剣』元はと言えば放浪を始めた当初に得た物でありながら、此処までに剣の力を成長させたのは主人の死闘を物語るものでもあった。
今は聖剣『チーフテン』と呼ばれ闇の者に恐れられる一振りを今回も背負っていた。
決して能力的に人を上回っているわけではない、武器が史上最強というわけではない、人より魔法が使えるわけではない、人より器用に戦えるわけでもない。しかし、本人は認めないものの周りは彼のことを「最強」と呼ぶ。
そんな一人の戦士が軍勢の前に現れた。