遙かなる望郷の地へ-44◆「心の迷路4」
■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋→廊下
時の流れは確実に進んでいる――それを、グラン本人が認める認めざるに拘わらず。
そして今、グランも時代の流れ歴史の流れに身を任せることにした、敢えて自分の痛みを無視してでも・・・
“今、姫の思いに答えるにはこれしかないのか。一番大切なことは軍を統率して勝利に導くこと、それだけを考えよう。俺にはそれしか出来ないし、誰に替わる事も出来ないのだから”
奥歯をへし折れるほどかみ締めながら自分を戒めていると、後ろから声が掛かった。
「大戦士殿!」
大股で歩くグランに追いつくと、ジャン・バルトは言った。
「宰相閣下より、軍の方を頼むとのお話しでした。公都前に、LAGを初めとする戦力が集結いたします。そちらへ参りましょう」
話している最中に、後ろからカシャカシャカシャと拍車の音を響かせて、コーランド軍司令官トリアノン・レスコーが追いついてきた。
「お二人とも、早足ですね」
事態が修羅場であれどうあれ、全く動じた様子もなく笑顔で話しかけてくる。
「コーランド軍にも集結するように指示を出してあります。ご一緒致しましょう」
「・・・」
ジャン・バルトとトリアノン・レスコーは互いの顔を見合わせると、無言で歩くグランの後に従った。先程の状況を思い起こすと、二人は大戦士の心中を察してはいたが、国と民の要とも言えるこの人物に、奮起を促さねばなら必要もあった。
「・・・」
「・・・」
ジャン・バルトとトリアノン・レスコーは互いの顔を見合わせると、無言で歩くグランの後に従った。
さて、此処まで沈黙を守っていたグランだったが、その心の中には一つの引っかかりがあった。
『キミらには難しい相手が向こう側に付いたってことだろうね』
“放浪の戦士”と名乗った相手の、この台詞が頭の中から消えなかったのだ。
「・・・」
幾ら考えても、今は杳としてそれ以上が判らなかった。
サブタイトル途中の記号が「◆」でグラン本編、「◇」でレアラン大公女公都前面攻防戦編、「◎」で派生編となります。宜しくお願い申し上げます。