遙かなる望郷の地へ-43◆「放浪の戦士3」
■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋
「簡単なことさ」
事無げに言うと相手は薄い笑みを浮かべた。
「この地に呼ばれたからさ。いや正確にはこの時代に、と言うべきだろうけどね。
ボクが“召喚”されるほど、“均衡”が崩れてしまってるんだろうな。まぁ平たく言えば、キミらには難しい相手が向こう側に付いたってことだろうね」
肩を軽く竦めてみせると。
「ボクを信用する、しないはキミら次第だね。信用しないって言うんであれば、さっさと立ち去るさ。どうするか、決めて欲しいね」
「・・・あぁ信用してやるさ。だから面倒くさい話は後回しだ。貴様は好きなお喋りをここで誰かとしていろ、俺は先を急がせてもらう」
話をしているのが急に面倒くさくなったのか、それとも主目的を変更したのか――グランは急ぎ部屋を出ることにした。だが、この侵入者には少なからず感謝はしていた、完全に冷静に戻れたからである。
「大戦士殿! 何処へ!」
足早に部屋を後にするグランを、慌ててジャン・バルトが追う。
「バルト卿、大戦士殿を公都前面へ案内せよ。軍が待っている!」
カイファートの言葉に頷いて、ジャン・バルトはグランを追って宰相の部屋を退出した。無論、礼儀正しい騎士である彼は、出口で一礼することを忘れない。
「さて。貴公が何方かは判らぬが、斯様な状況下で唐突にここに現れたと言う事実は興味深い」
「痛み入るね、宰相閣下」
「だからといって、諸手を挙げて信用する立場に、我らが無いことも理解して貰えるであろう?」
「勿論ですよ」
「良かろう。暫くは、貴公は私の客人としよう。部屋を用意させる故、そちらに居ては貰えないか」
「いいでしょう。宰相閣下、アナタの度量に免じて、言われる通りにしますよ。で、部屋はどこですか?」
「案内させよう」
カイファートは侍従を呼ぶと、客人用の部屋に案内するように言った。
「では、宰相閣下。これにて失礼します。ボクが入り用でしたら、躊躇無くどうぞ」
笑顔でそう言うと、“放浪の戦士”と名乗った青年は部屋を出ていった。
少し間が開きました。ここから、お話しは二つに分岐します。暫く、交互にアップしていく予定です。宜しくお願い申し上げます。