遙かなる望郷の地へ-41◆「放浪の戦士」
■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋
「く・・・」
奥歯を食い縛る。
“最悪だよ、最悪!!”
此処まで高めてきた緊張の糸が完全に切れ、席を立ったものの今は足が動かない。
――追うべきか、一人にさせるべきか
握る拳に力が入り、その痛みがグランに現実であることを意識させた。
“己の軽率さと後悔より、今は成すべき事があるはずだ”
グランは、近くに居るジャン・バルトに命じた。
「悪いが俺に一発気合を入れてくれ、命令だ!」
「自分の不甲斐なさを部下に転じて解消、なんていうのは実際下の下だと思うけどねぇ」
緊張感の無い声が、緊迫を破った。くたびれた旅装束をだらしなく着込んだその男は、何かの草の茎を銜えながら、戸口に寄りかかっていた。
「怒る前に、アンタは成すべき事があるんじゃないのかな?」
にやりと笑った表情は、若いとも老けているとも言える、不思議なものだった。
「何奴っ!!」
唖然とした状態から最初に脱却したジャン・バルトが、抜く手を見せずに抜刀した剣を、事無げに二本の指で押さえてしまう。
「そんなに焦らない焦らない。ボクは、少なくともキミたちの敵じゃないよ。剣を仕舞ってくれないかな」
「む・・・」
微動だにしない剣に、低く唸るジャン・バルト。筆頭騎士を手玉にとる相手とは、どんな技量の持ち主なのだろうか?
「貴様・・・何者だ」
「そうだねぇ・・・」
涼しげな顔で一考。そして、そうだったと屈託無く笑う。
「放浪の戦士シレイナス。これで行こう!」
「“これで行こう”とは何だ! それが己の本名か!」
「う〜ん、本名はね…確か、サリアン・リパニアンだった筈だね。そう、サリアン・リパニアン。♪なんてったって聖戦士〜ってヤツさ」
相手ペースの物言いに、実直なジャン・バルトは目を白黒させている。