遙かなる望郷の地へ-31◆「開戦前夜6」
■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋
「相手方のこの行動が陽動と考えますと、事態は大分複雑になりますな」
カイファートは難しい表情で、ヒラリーとディンジルが出て行った戸口を見る。
「“真の目的”があるとすれば、それが何であるか至急把握する必要があります。普通に考えますと、ジョフを崩壊させる為に大公女殿下か大戦士殿を標的にするだろうと言うところですが、現状を考えると、斯様な単純な事柄ではないと思われます」
一渡り集まった顔ぶれを見渡した後。
「この件に関しては、ヒラリー殿とディンジル殿にお任せしても宜しいかと思います。当面、我々に求められているのは、お二人が“真の目的”を見いだすまでの時間稼ぎ、と考えます」
「僭越ながら、当方から軍の状況を報告致します。辺境に展開中の軽騎兵第一〜第三連隊の戦力が1,100。公都に集結している全戦力──これは軽騎兵第四連隊、親衛騎士団、装甲騎兵連隊、装甲歩兵連隊の事ですが──は837に過ぎません」
「私たちコーランド北遣軍は総数で3,500です」
LAG親衛騎士ジャン・バルト、そしてコーランド北遣軍司令官トリアノン・レスコーが発言する。
「辺境に展開している遊撃軍の第一、第三連隊は動かせませんから、前線にいる第二連隊を含めても、戦力比は1:2ですな」
話を引き継ぐように、カイファートが続けた。二倍の戦力比──装甲騎兵と装甲歩兵の実戦力を倍と考えても、絶対数で半分以下である。
「公都から、戦える者を全員集めたとしても、1,000程度に過ぎないでしょう。この者達には意欲はともあれ、練度は全く期待できません」
「装甲歩兵の一部を彼らの中に混ぜて、補強するという手立てもあります」
「補強か──ふむ、それは悪くない考えかもしらんな、ジャン・バルト卿」
「恐縮です」
「大公女殿下、大戦士殿。現状では、前線の遊撃軍を除き、手元の戦力はレスコー殿のコーランド遠征軍を含めて約5,000といったところです。打って出て野戦を挑むのか、公都に籠城して援軍を待つか。どの様に戦うか、方針を決めねばなりません。但し、公都は先の戦いでの修復作業が完全ではなく、東部と南部の城壁にまだ切れ目が残っています」