遙かなる望郷の地へ-30◆「開戦前夜5」
■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋
レアラン姫の返事は、グランにも当然予想されていたものであった。それに気が付いていた為、飛翔軍に対する指示は必然的に曖昧な物になっていたのである。
努めて冷静な表情を浮かべて、グランはレアランに返して言った。
「判っています。しかし、予想される危険には十分に注意してほしい。貴女の情報は確かに重要だが、それ以上に貴女の存在はこの国にとって重要ですからね」
グランは視線を宰相に戻した。
「斥候と飛翔軍の情報をまとめられる情報部を急ぎ卿の配下で組織してくれ」
カイファートはグランに重々しく頷くと、その指示を飛ばす。
グランは後から入室した騎士にそれぞれ挨拶をした後、ヒラリーとディンジルが出て行った戸口にちらりと視線を振ると。
「俺の予想も彼らと同じだ。かといってオークの戦力は1万、対する現時点での我が軍は一桁少ない。陽動と割り切ったとしても、無視する訳にはいかないと言うのが俺の判断だ」
グランは、頭の中の項目を一つずつ列挙していく。
「因って偵察によって得られる情報により、オークどもの中心に何が居るのかを明確にする。それを速やかに無力化し、ヒラリーらの情報と今後の手段を考えるしか方法は無い。良く言って臨機応変、悪く言えば行き当たりばったりになるが。まぁ、いつもの冒険と同じレベルだな、これではな」
ぐるりと取り巻く顔を見回すと。
「他に意見が無ければ軍の調整に入りたいが?」