遙かなる望郷の地へ-28◆「開戦前夜3」
■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋
エリアドの意見の後、グランは渋面を浮かべて言った。
「今回の進入がただのオークどもの馬鹿騒ぎなら良いのだがな」
やや苦笑いした後に続ける。
「それ以外の闇の意思が介入しているなら、当然俺だけでは手に負えないだろう、それに備えて自由に動いてもらいたい」
グランにしては、何時に無く饒舌に話していた。
「龍騎聖とゆっくり話もしたかったが、それは卿らに任せるとして、俺は早急に中央軍及び第4連隊の指揮官と打ち合わせをしたい」
グランの頭の中では、相手を迎撃するのに適した地形を選び、相手の機動力を削ぐ防御陣を形成する一軍と、そこから打撃として打って出る機動戦力の二隊の考えが浮かんでいた。当然ながら、自分自身が機動部隊の指揮を執るつもりであったが、要となる防御陣の指揮官と調整をする必要があった。
“こんな時にこそ副官だったアランが居てくれたなら!”
まだまだ人材は不足していることを痛感してやまなかった。
「飛翔部隊は準備が出来次第敵戦力の偵察を行ってもらいたいが・・・」
急に言葉の力が落ちると、グランはちらりとレアランを見る。
「いや、まだ早いな、危険すぎる。今は斥候の報告でかまわないから飛翔軍のスタンバイだけは掛けて欲しい」
正直言って飛翔軍に関してのみ悩みが介入していた。得体の知れない相手に対し単騎レベルの空中偵察は危険すぎると思うからであった。
「空中からの偵察は、最も効果が高いと考えます」
グランの目を正面から見つめながら、レアランは毅然として言った。
「故に、大戦士さま。お言葉を返すようですが、飛翔軍の三騎の準備が整い次第、最も効果的に投入されることを希望します。カイファートさま、ケイセルとパリスに準備せよ、と伝えさせて下さい」
「御意。その様に致しましょう」
カイファートの指示を受けて、伝令が飛翔軍の二人の騎士の元に走っていった。時を同じくして、拍車を鳴らす足音が廊下に響いた。寸刻の後、ノックが続く。
「入りたまえ」
「失礼を申し上げます。ジャン・バルトであります」
「おぉ、バルト卿。良いところに来た」
レオン・“ロック”・ジャン・バルト。LAGの筆頭騎士にして、古参の騎士の一人である。
「警告の角笛を聞き、僭越ながら馳せ参じました。それから、コーランドのレスコー卿殿も参っております」
ジャン・バルトの影に立っていた人物がすっと横に出ると優雅に頭を下げた。長い黒髪に黒い瞳、細身で長身の女性である。
「コーランドのトリアノン・レスコーでございます。お国の危機、と聞いて参りました。コーランド北遣軍の準備は整っております。何時でも、ご指示を拝命致します」
「レスコーさま、ご助力心から感謝申し上げます。お聞きになったかも知れませんが、西の国境をオークのレイダーに進入されました。数は一万との報告が入っております」
「貴国の女王陛下、国王陛下に更なる助力を御願いしようと思うが、如何かな?」
「宜しいかと思います。オークと言えども、一万の戦力は決して侮れません。私も、宰相閣下のご判断を支持申し上げます」
「忝ない。では、そうさせて頂こう」