遙かなる望郷の地へ-18◆「交錯する想い4」
■ジョフ大公国/宮殿/大広間→廊下→宰相の部屋前
「相変わらず可愛げねぇな・・・」
やれやれ、と頭を搔きながら、グランは苦笑した。
『てめぇら、さっさと中に入りやがれ』と口先まで出ながら公式記録に残らないよう寸前のところで堪えて言葉を選んだ。
「俺は先に行くから好きにしてくれたまえ」
それでも精一杯抑えた妙な言葉を用いてから部屋に入室した。
“大体、他人の部屋の前で何を悩まなければならん。 開けられたドアなら尚の事だ・・・”
その部屋には、現在のグランが一番重用し且つ信頼している人物がいるはずである。国内の政策面のみならず軍事面まで指導力を発揮し、阿呆なグランに取って真に得がたい人物であった。また自分の名を冠した親衛騎士団の創設も進められている。
「おはよう」
部屋に入ると、部屋の主に声をかけた。
☆ ☆ ☆
『相変わらず可愛げねぇな・・・』
呟くように洩らしたグランのセリフに、エリアドは小さく肩を竦めてみせる。
『俺は先に行くから好きにしてくれたまえ』
そう慣れない言い廻しのセリフを残して部屋に入ってゆくグランの後ろ姿に、小さな微笑みが浮かぶ。
以前のグランなら、間違いなく『てめぇら、さっさと中に入りやがれ』といった、ぶっきらぼうなセリフが飛び出していたはずだ。
おそらくは兵たちがいた手前なのであろうが、今のところはそれを抑えられただけで上々。
悪戯っぽい表情を浮かべて、レアラン姫の方に向かって、片目だけでウィンク。
一旦責任を背負ってしまえさえすれば、たとえそれが好きでなかろうと、途中で放り出して逃げ出すような漢ではない。
案外、良い領主になるのではないか。前からそんな予感はあったのだが、今の一言でそれを確信する。
“ならば・・・。安心してここを発てるというものさ。”
エリアドは口の中で小さく呟いて、
「さぁ、私たちも参りましょうか」
そのように続けた。
☆ ☆ ☆
「はい。」
ジョフ大公国第一主権者の表情には、慈愛に満ちた笑みが浮かんでいた。その瞳には、自分を護る戦士とその友人たちに対する深い信頼が宿っている。
「じきに、レムリア姫さまが紫の騎士さまと黒の剣聖さまをお連れして下さるでしょう。わたくしたちも、中でお待ちしましょう」
どうぞ、と扉を指し示すとエリアドをさり気なく促してグランに続き、宰相の部屋に入った。