遙かなる望郷の地へ-15◆「交錯する想い」
■ジョフ大公国/宮殿/大広間→廊下→宰相の部屋前
「では、後ほどに」
グランに続いて大広間から出て行くジャンニを、レアランは丁寧な会釈で見送った。
「エリアド様はいかがなされますか?」
朝食の席には、まだエリアドが残っており、ゆっくりと紅茶の香りを楽しんでいた。
グランが席を立った今、残る賓客のもてなしはレアランの責に移っている。
何処か取っつきにくい“魔剣士”に、レアランは笑みを浮かべて話し掛けた。
「お部屋にお戻りになりますか?
それとも、これから直接カイファートさまの所にお出かけになるのでしたら、わたくしがご案内いたしますけれども」
☆ ☆ ☆
エリアドは彼女の視線に応えるように小さく呟き、軽い微笑みを浮かべて彼女を見送る。そのレムリアに続いて、グランとジャンニの二人が席を立ち、大広間を出てゆく。
“・・・さて、と。どうしたものか”
レアラン姫の問いを聞き、紅茶の最後の一口を飲みながら、エリアドは暫し考えていた。
“・・・とくに部屋に戻らねばならぬ理由があるわけでもなし・・・”
そう結論を出すと、エリアドはレアランに視線を戻した。
「・・・そうですね。他の方々には少し申し訳ない気もしますが、一足先にカイファート殿のところに向かわせてもらうことにしましょうか。」
微笑ましいほど純粋な女主人に合わせるように、慣れぬ微笑みを浮かべるエリアドだった。
☆ ☆ ☆
さて、先に大広間を出たグランである。
大広間を出たのは、間が持たなかったことが理由であって、別に私室に戻って済ませなければならぬ用も無かった。
「さて・・・」
一瞬考えたものの、グランは良く言って即断即行、悪く言えば思慮短絡の性格である。大広間前に控えていた近衛兵に、自分が先に宰相の執務室に向かったことを大公女に伝えて欲しい旨言うと、廊下を黙って歩き始めた。
“まぁ、これからも平和な毎日がずっと続くとは思っちゃいないが、停滞と安寧の日々と疾風怒涛の戦乱と俺はどっちを望んでいるのか? これだから戦士と言うものは救いようが無いんだ”
やや苦虫を噛み潰すような表情を浮かべながら、グランは歩いていた。
やがて宰相執務室前に到着し、扉を守る近衛兵と敬礼を交わすと、重い音と共に部屋の扉を引き開けた。